浮遊戦艦の中で200



(通り一辺倒じゃいけない……。正太郎様は、思慮の浅いこのわたくしに対して、そんなことをおっしゃっていました……)

 マリダは、当時のことを懐かしむように思い返す。

 彼女にとっても、正太郎と修練を積む日々は無駄なことではなかった。

 いくら彼女が、

《当代きっての優秀なアンドロイド》

 であるともてはやされても、それは器にこれまでにない人類の叡智を注いで作られただけであって、その中身まで完璧に構築されたわけではない。いかに天才クラルイン博士の手によって作られたマリダであろうとも、製造後の外的要因によって成長を促されなければ、ここまで優秀なアンドロイドとして名を馳せることはなかったであろう。

(わたくしは、あの大切な時期に、正太郎様や、小紋様。そして大膳様と同じ時を過ごせたことに大変感謝しております。ですが、わたくしはまだまだ未完成な存在です。このままあのお三方に会えない日々が続くようであれば、わたくしの思考回路は考えることを放棄してしまうかもしれない……。いえ、本当に恐ろしいのは、シャルロッテを再起不能にしてしまった時のように、無意識に私欲に満ちた破壊行為に至ってしまうこと。もし、そんなことになれば、わたくしは……)

 マリダが、憂鬱な表情で思いを巡らしていると、

「陛下。陛下。如何なされました?」

 セリーヌ中尉が、眉間にしわを寄せ心配そうにうかがってくる。

「い、いえ、何でもありません……」

 マリダは首を振って彼女を制する。

「お加減がよろしく御座いませんのでしたら、差し出がましいかもしれませんが、しばしお休みになった方が……」

「はい、お気遣い有難うございます。では、そのお言葉に甘えさせていただきます。セリーヌ中尉。あとのことは貴官におまかせいたしますので、どうかそこのところをよしなに……」

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