浮遊戦艦の中で158


 今のマリダの心中は複雑である。

 あの感情に任せて放ってしまった〝第二者侵入プログラム〟。その事実によって、この世に生まれ出てきた理由を初めて他者に認知させてしまう結果となってしまった。

 自らが運命づけられた目的――。

 それが、あの超大型人工知能神〝ダーナフロイズン〟の機動ユニットとして製作されたことなど、この非情な事実は極一部の者しか知り得ないのだ。

(もしそれが、他の方々にでも知られてしまったのなら……。もし、この事実が正太郎様にでも知られてしまったのなら……)

 万が一、この事実が彼女を慕う周囲の者たちに知られてしまえば、彼女が彼女として積み上げて来た信用が崩れ、たちどころに彼女への見方が逆転してしまうのである。

(わたくしは、望まぬ役目を任されて生まれ出て来てしまった……。こんな望まぬ力を持たされて生まれ出てしまった……。でも、だからと言って、今のわたくしがわたくしであるという事実だけは変えられない。この事実だけからは逃れられないのです……)

 取り付く島もない心持ちである。

 マリダ・ミル・クラルイン――。

 彼女が、超大型人工知能神〝ダーナフロイズン〟の機動ユニットとして製作されたというのは事実である。

 機動ユニットとは、知識不足で、経験不足で、未だ完成品ではない超大型人工知能神〝ダーナフロイズン〟の補填作業を図る目的で作成されたアンドロイドであり、自律型端末機器なのである。

 それは、製作者であるクラルイン博士と、その周囲の者たちの意向によって決定づけられていた。いわば彼ら、超大型人工知能〝ダーナフロイズン〟を絶対神として擁立しようとする者たちの未来計画の一環でもある。

「わたくしは、シャルロッテに対して、アンドロイドは私利私欲であってはならないなどと言っておきながら、自身の立場を守るために彼女を故意に再生不能にしてしまいました……。ああ、わたくしは、なんて罪深い行いをしてしまったのでしょう……」


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