浮遊戦艦の中で159


 マリダがこの世に製作されたのは、あの〝ヴェルデムンドの戦乱〟と呼ばれた五年前の戦いの後のことである。

 以前に、小紋の父である鳴子沢大膳が、羽間正太郎にこう語ったことがある。

「あの〝ダーナフロイズン〟という超大型人工知能神は、実際には存在しなかったのだ――」

 と。

 そう、確かに彼ら反ヴェルデムンド新政府を掲げた人々が調べ上げた情報もまた事実なのである。

 では、なぜマリダ・ミル・クラルインのような自立型端末機動ユニットが、この世界に暗躍するようになったか?

 それは、まだあの戦乱自体がだからである。 

 超大型人工知能神〝ダーナフロイズン〟は、その時点ではまだ運用にまで至らない完璧なる未完成あったのだ。あの五年前の〝ヴェルデムンドの戦乱〟の時点では――。

 しかし、世界をその手に牛耳ろうと目論む超大型人工知能神擁立派の計画は、未だ現在進行形で進められていたのである。

 超大型人工知能神擁立派の狙いは、その名の通り自分たちが作り上げた人工知能神によって世界の価値観を画一的なものとし、自分たちに都合の良い世界を構築することである。

 これは、彼ら擁立派の後ろ盾となっている黒幕組織の長年の夢であり、超長期的な計画の一環でもあった。

 しかし、彼らには二つの誤算があった。

 一つ目は、超大型人工知能神〝ダーナフロイズン〟が、異次元渡航を可能にしたあの戦乱前にしても未完成であったこと。

 彼らは、異次元人によってもたらされた〝異次元渡航技術習得〟を機に、元からある地球と、新天地となったヴェルデムンド世界を、我が手中に収めようと画策していたのだ。

 しかし、期待の超人工知能神は技術的に完成にまで至らない結果となり、それよりも百億分の一以上性能が劣る大型人工知能ら数基を使用し、なんとか世間一般を誤魔化して事態を乗り切っていた経緯があった。

「経験不足に容量不足、ましてあの時代においては電力不足という事実がありました……。今現在は〝ゲッスンライト〟という鉱物のお陰で、超人工知能神を維持するための電力不足というハードルは乗り越えられましたが、それでも基礎的に経験不足というハードルは乗り越えられません。ですから、わたくしたちのような経験を収集するための機動ユニットが必要となったのです」




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