浮遊戦艦の中で146


 その瞬間、マリダの機体を両脇から抑え込んでいたヘスマン改が異常行動を起こした。急にマリダ機を放したかと思うと、自機を自らの腕に備えた八十ミリ機銃によって撃ち抜いたのである。

「な、なんだ!? 何が起こったのだ!?」

 艦橋からその光景を窺っていたリゲルデは、焦燥の声を荒らげて前に乗り出す。

 自らを撃ち抜いた二機のヘスマン改は、装甲をボロ布のようにまき散らしたままヘルマンズ・ワイスⅤ型のデッキ上から崩れるように転げ落ちて行く。

「わたくしは……。わたくしは……。あなた方を許しません……。絶対に許しません……」

 今のマリダは、いつものような落ち着きと気品を感じさせなかった。まるで悪鬼の如き形相である。

 〝統治者制限プログラム〟を解除した彼女には、特別な力が発動することが出来る。それは〝第二者侵入プログラム〟の発動を意味している。

 女王となるべくして統治を任されたマリダに、クラルイン博士は二つの選択肢を与えた。

 その一つ目が、

「自ら考えて行動が出来るように、人々の暮らしを良き方向へと導くこと」

 そして二つ目が、

「圧倒的な力によって統治すること」

 である。

 彼女の制作者であるクラルイン博士は、その判断を博士自身が行うのではなく、マリダという人間ではない第三者の新しい生命体〝アンドロイド〟にゆだねるたのだ。そうすることによって、彼女の任意で制限装置の解除を行わせるようにしたのだ。

 人工知能が発達し、さらに機械兵器や機械兵士が通常となった今、この力を有する者が天下を取る時代になる。

 彼女は、そんな時代に於いての救世主とも悪魔ともなり得る力を兼ね備えていたのだ。

「クックック、なるほどな……。その力、三次元ネットワークを通じて相手の人工知能を思い通りに操ったということか!? ようやく化けの皮を剥がしたな、この薄汚いバケモノ女王め!! 俺たちを、その力でねじ伏せる気か!?」

 

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