浮遊戦艦の中で135


 マリダの駆るクイーンオウルⅡ型改は川べりの岩礁地帯を抜け、巨木の立ち並ぶ森林地帯へと入った。

 夜も明けやらぬ漆黒の密林には、まだ人類には発見すらされていないあらゆる肉食系植物が跋扈ばっこしている。大型コンピューターの予測では、その数千種以上は下らないとされている。

 その中を、生身の人間一人が行軍するのは自殺行為だとされているが、現在の人工知能の発達と共に進化してきたフェイズウォーカーさえあれば、どうにか生き延びることが可能になった。

 人類が、この肥沃で広大で野蛮極まりない大地に足を踏み入れてから早十数年が経つ。

 その足跡と共に、人類の新しい時代を支えるために造られしアンドロイド。それがマリダ・ミル・クラルインであった。

(わたくしの生みの親である母クラルイン博士の理想は、互いが本当の意味で思いやることの出来る世の中を作ることです。その理想は、このわたくしの中枢思考回路の根幹に程よく根付いております。ですから、わたくしはを放って置くわけには行かないのです。どうか許してください……)

 マリダは、クイーンオウルⅡ型改のナビゲーションランプをオンにするや、それと共に位置情報を示すための信号を敵味方関係なく発信した。

(こうすれば、わたくしを討ちに来た討伐隊にわたくしの居場所を示すことが出来る……。確かにこれは危険な行為かもしれませんが、ドールとして生まれてきたわたくしに出来ることは、やっておかねばらならないのです……)

 マリダは、サガウルらが考える以上に先を読んでいた。そう、恐怖政治を敷くシュンマッハという男が、どういう意図で討伐隊をこちらに向けてきたかということを。

(きっと、討伐隊に編成された方たちは、シュンマッハ殿にとっては微妙な立ち位置にいらっしゃるはず。そんな方々は、間違いなく……いえ、捨て駒として考えられているに違いありません。そんな方々を説得出来るのは、女王の役目を任されたこのわたくしにしか出来ぬことなのです……)

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