浮遊戦艦の中で132


「良いのだ、アマンダ……いや、シャルロッテ中尉。今のお前は不安定だ。いくらお前の能力値が他のパイロットよりも数段高かろうと、その様子では他の者たちと上手く連携を取って戦えまい。お前はここで他の兵士たちの戦いぶりを観察していればよい」

 リゲルデは、穏やかな物言いで彼女の肩に手を置く。

「ですが中佐……」

 シャルロッテは、いささか困惑の表情でリゲルデに食い下がろうとする。

「なあ、シャルロッテ中尉。この判断の何が不満なのだ? 確かにお前のパイロットとしての資質は認めよう。だが、この戦いはいくらパイロット一人が優秀であろうともどうにもならん戦いなのだ。消耗戦とはそういうものだ」

「消耗戦、ですか……?」

「そうだ、消耗戦だ。彼らフェイズウォーカーのパイロットたちは、俺たちにとっての布石でしかない」

「し、しかしそれでは、私の存在意義が……!!」

「存在意義だと?」

「ええ、そうです。私は生まれ持ってのアンドロイド……この世の人類に貢献するために製造されたドールなのです。そのドールが、何もせずこの場を見送るなどと……」

「良いではないか。それに存在意義ならある。この俺の為に貢献すれば良いという存在意義ならな」

 言われて、シャルロッテは黙り込んだ。決して彼に従順になろうとする意味からではない。ここで軍事用の制御装置リミッターが利いてしまっているからだ。

 シャルロッテには理解出来ていた。なぜ彼が自分を戦いに出したがらない理由を。

 だが、ここでそれを口にしてしまえば、必ずリゲルデの人間としての誇りを傷つけてしまうだろう。彼は自分を大事にしてくれている。誰よりも自分を大切に扱ってくれている。

 だが、当の本人は、かねてより周囲の者たちにうたっているのだ。

 そんな人の前で恥をかかせたくないという、シャルロッテ中尉の心遣いが発動したのだ。


 

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