浮遊戦艦の中で133


 ※※※


「隊長! サガウル親衛隊長!! マリダ女王陛下の機体が先行し過ぎています!! このままでは、我々親衛隊よりも先に、陛下の機体が間もなく敵部隊と遭遇してしまいます!!」

 オペレーターのミコナス准尉は、回線を通して声を荒らげていた。 

 渦中雪月花の陣を敷いた親衛隊一番隊は、とてもマリダの機体に追いつけなかった。彼らの先を矢のように飛び出して行ったマリダのクイーンオウルⅡ型改のスピードは、とても尋常なものではない。

 いくらアシュド大運河の川べりが岩礁地帯であろうとも、決してフェイズウォーカーに都合の良い平坦な道ではない。

 幾重にも連なった巨大なビルのように隆起した岩山と、それらの岩山が崩れ落ちて出来た瓦礫のような障害物の連続によって、直線軌道で進むことはかなり困難である。

 しかし、指令室のホログラムスクリーンには、マリダの機影だけが突出して先行していることが確認されている。

「ミコナス准尉、了解した!! こちらに送られてきたデータでもその現状が確認出来た。我々も出来る限り陣を崩さず速度を上げて対応する!! 陛下にはなるべく速度を落とすように喚起してくれ!!」

「了解しました! 陛下にそのようにお伝えいたします!」

 マリダの操縦技術は、ここに居るどの兵よりも群を抜いていた。それに加えての戦闘ユニットとしての役割も一度にこなしてしまう飛びぬけた能力である。親衛隊の中には、当然ヒューマンチューニング手術を受けたミックスの存在はいるが、彼らがどんなに優秀であろうとも彼女の能力には到底及びもしない。いくら手練れの親衛隊であってもマリダに追い付くことは不可能なのだ。

(へ、陛下……。どういうおつもりでそのように急ぐのでありますか。我らが〝渦中雪月花の陣〟を敷いている以上は、これ以上の速度を上げることがかなわぬのはご存じなはず……)





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