浮遊戦艦の中で131


 見事、悪の女王マリダを討ち取り、無事帰還すれば英雄になれる。そんな単純明快にして子供じみた夢のような話はここでは通じない。

 やるかやられるか。生きるか生き残るか。トップに従順であるか、そうでないかだけがシュンマッハ政権下で生きてゆくためのセオリーなのである。

(悪の女王とはよく言ったものだな、この俺も……。ここに居るほとんどの兵士たちに、そんな子供じみた幼稚な言葉など通じる筈もない……。だが、今ここで言わねばならぬのが実情だ。やるかやらぬかではない。もう、やらねばならぬのだよ……)

 リゲルデは、士官たちの視線を背中に受けながら、ざわつくブリーフィングルームを後にした。


 漆黒にむせぶ森の中は、機動兵器特有の融合炉音で満たされた。

 フェイズウォーカー四十五機が一斉に出撃するともなれば、その騒々しさは尋常ではない。

 リゲルデは、虚しさを胸に艦橋からその状況をうかがっていた。

「ルード軍曹、全部隊への指示は予定通りだ。斥候の情報が事実と確定した今、目標は女王部隊が移動していポイント103の北端24の地点、アシュド大運河の川べりにある。我々はこの川べりの地形を利用し直線軌道で女王部隊の正面より特攻をかける!! これより作戦開始だ。全部隊に直ちに発進の合図を打て!」

 リゲルデの号令と共に、全部隊の回線からアラート音が鳴り響いた。第一級戦闘態勢からの作戦開始の合図である。

 戦闘態勢にあったフェイズウォーカーの各機は、号令と共にスラスターノズルを全開にして強襲陸戦艇〝ヘルマンズ・ワイスⅤ型〟のデッキを後にした。

 それらが一斉に唸りを上げると、巨大な木の葉が土ぼこりを上げて宙を舞い、そして微塵の枯れ葉となって地に舞い落ちる。

 その様子を横で窺っていたシャルロッテ中尉が、いかにも怪訝そうな表情で、

「私がこのまま戦いに出なくても宜しいのでしょうか?」

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