浮遊戦艦の中で106


 リゲルデは、まんまとシュンマッハの術中にはまって行く。

 シュンマッハは、他人を利用することしか能の無い男である。しかし、それを見た周囲の者からすれば、どういうわけか、

「シュンマッハさんには、誰にも負けないほど人望がある」

 というように見えてしまうのだ。

 やがてそのような評価は一人歩きをし、シュンマッハの率いていた集団は日増しに膨れ上がって行く。

 そんな状況をシュンマッハが見逃すはずがなかった。

 シュンマッハは、自分に実力が無いのにもかかわらず、リゲルデのような能力のある者を幹部に引き立ててはその手柄を自分の功績とし、その功績を後ろ盾に小金持ちたる人物に接触しては資金を得ることを繰り返していた。

 リゲルデら幹部となった実力者たちは、この状況をしてもこの時点では何も不思議がることはなかった。何も不満を抱く者もいなかった。ただ、彼らはシュンマッハのために功績を上げることが何よりの至福と感じるようになっていたのだ。

「我々は、シュンマッハ様が引き立ててくれたからこそここに居られる。我々の存在意義は、シュンマッハ様があってのことなのだ!!」

 リゲルデは、自らが何でこの地に足を踏み入れたのかさえ忘れる羽目になり、医学を志す学生という立場を捨て、とうとうシュンマッハが立ち上げたゲリラ集団の幹部の位置を揺るぎないものとするようになっていた――。

 そんな自らの過去をなぞって行くたびに、彼は毎度のこと後悔の念が溢れて取り付く島の無い心持ちになるのだ。

「シュンマッハめ――。あの時、あの男にさえ出会わなければこんな事にはならなかったはずだ……。あの男は他人の人生を不幸にする。あの男は他人の手柄を吸い取るだけ吸い取って、その者に利用価値が無くなれば即お払い箱だ……。この俺も、もしかすれば、女王討伐隊を命ぜられた時点でお払い箱なのかもしれん……」


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