浮遊戦艦の中で107

 


 そう思いつつも、リゲルデは進軍を止められない。

 シュンマッハとの付き合いの長い直属の将校たちは、あの男がどんな男か知っている。が、一般の兵たちはまるでそれを知らない。

 いや、知らないどころか、一般の兵たちからすれば、シュンマッハという人物像は、穴だらけの政治を行ったとされる女王マリダ政権を打倒した希代の英雄そのものなのだ。

 いくらリゲルデが、シュンマッハの内情を一般兵たちに打ち漏らしたとしても、到底簡単には信じてもらえるものではない。

 そんな英雄たる人物像を信じ込まされた一般兵……いや、一般民衆たちにそれを口説いたところで、人々は一笑に付し、やがてそれを口にした当人を責め立てることは容易にうかがえる。

(奴はそれが狙いだったのかもしれん。いや、そうでないかもしれん。奴にそれだけの戦略的な能力があるかどうかさえ疑うところだ……。だが、ここにこういった事実がある以上、俺はそこから逃れられんということだ……。言うなれば、奴は長い付き合いのこの俺でさえ、ただの手持ちの道具に過ぎんと思っている……。奴は、自分の身の安泰と自己顕示さえ叶えばそれでいいのだ。奴はそういう男なのだ。……だが、もう俺は後に退けん。こうなってしまえば、とことん功績を上げて自分の地位を確立してゆくしか残された道は無い……)

 リゲルデはその夜、兵百十余名とともに第二寄留を出立した。

 夜の進軍は、肉食系植物による襲撃が顕著である。そのため自ずと命懸けになる。だが、これもリゲルデの作戦のうちである。

 リゲルデは、女王専用車両ウィク・ヴィクセンヌの行方を追うために自分の軍隊をも潜ませる作戦に出たのだ。

(女王マリダは、敵ながら世にも秀でたひとかどの存在だ。さらに、そこに率いる家臣や参謀たちも選りすぐりときている。そうなれば、俺に残された手立てと言えば、捨て身覚悟の奇襲しかない……)




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