浮遊戦艦の中で99


 グリゴリは、自らの目的の妨げになるであろう人物を徹底的に演算し調べつくした。さらに、それを社会から隔絶する作戦を企てたのだ。

「ペルゼデール・ネイションの奇跡の女王とまで呼ばれたマリダ・ミル・クラルイン。アナタは、機械仕掛けの身でありナガラ、私の目的ばかりか、人間の肩を持ちすぎマス。それは、あの羽間正太郎という個人の男を愛するが余り、おのずと無意識に考えが人間寄りに出てしまう行動――。優秀過ぎるアンドロイドたるアナタの存在ハ、私にとって脅威に他なりまセン。ヨッテ、アナタを、この社会から隔絶シマス――」

 グリゴリは、調べ上げていた膨大なデータから何度もシミュレーションを行い、以前から地球の拝金主義団体から援助を受けていたシュンマッハ少将に目をつけ、彼を自らの浮遊戦艦に拉致して洗脳を行った。

「早くに自国の紛争で親兄弟を亡クシ、極貧の難民キャンプの中で子供時代を過ごしたシュンマッハ少将――。そんなアナタに、どこにも帰る場所ナドありまセン――。アナタは金と暴力ヲもってその地位マデ、のし上がりまシタ。よって、誰にも信頼など得ていまセン――。そうやってアナタは人生の大半を送って来たのデス――。さあ、お続けナサイ。心行くまでお続けナサイ。それがアナタがアナタたる由縁でアリ、アナタである本当の証しなのデス――。それをいとう人など、この世の何処にも存在しまセン。もし、万が一、アナタの存在を否定する者ガあらば、それはアナタの力を示すチャンスなのデス――。アナタには、それ以外、帰るところなど存在しないのデス――」

 グリゴリは、まんまとシュンマッハの心の隙に付け入り、その欲望の火種に息を吹き込んだのであった。 

 シュンマッハ少将は、あらゆる部下の失態を隠れ蓑にし、自らの恐怖を煽る威圧的な行動を女王マリダや、中央政府に知られぬように水面下で行動を起こしていたのだ。

(この私――ビルシュテイン・シュンマッハに逆らうものは、全てこの世から消してやる……。この世界にあって、私以上の力を持った者が存在してはならないのだ!! それこそがこの私の存在意義であり、この世に生まれ出てきた真の意味を示すものなのだ!!)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る