浮遊戦艦の中で100


 ビルシュテイン・シュンマッハ少将が企んだこの軍事クーデターは、あらゆる寄留地に影響を及ぼした。彼らの決起に触発された民衆が、次々と各政権を脅かし、挙句何の政策の無いまま国家を転覆させるまでに至ってしまったのだ。

 なにせ彼ら第八大隊は、このヴェルデムンド世界に居住する全ての人々に向けて、情報発信を事細かく行い、

「女王マリダが敷く無慈悲で穴だらけの政治――」

 というものを連呼し続けていたのだ。

 それに呼応して武器弾薬を一発も撃たずに、ペルゼデール・ネイションの中央会議堂であるステラヘイム公会議を占拠してしまったのもやむを得ぬということろだ。

 無論、

「女王マリダが敷く無慈悲で穴だらけの政治――」

 などといったものは事実無根である。

 とは言え、この人災とも戦災ともどちらとも取れぬヴェルデムンド世界のこの状況にあっては、その情報発信を目にした民衆がそちらに傾くことなど、やはり自然の摂理とも言えよう。

 そんな事実無根の情報発信も、三次元ネットワークを自由に操れる人工知能〝グリゴリ〟の力もあってか、決して事実でない出来事でさえも事実と修正されてしまうのだ。

「マリダ陛下――。お察しの事かと存じ上げますが、今や我が国ペルゼデール・ネイションのみならず、我々の住むこの大地に味方と認識できる寄留地など存在致しません。ですが、このウォーレン・剣崎、陛下への忠誠と共に、陛下のお命とヴェルデムンド世界の平穏を、この私めの命の限り尽くすことをここに誓います」

 女王マリダの側近でもあり、最高司令部の参謀役でもある剣崎大佐は、彼女を無事に逃走させた立役者である。

 剣崎大佐は、シュンマッハ少将の不穏な動きをいち早く嗅ぎつけ、あらかじめ企てられた女王包囲網を突破させる算段を実行に移したのだ。

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