浮遊戦艦の中で95


 そんな街の人々のやるせない心境と同じくして、総括リーダーの座から失脚させられた小紋も取り付く島もない状況に陥っていた。

「我々〝シンク・バイ・ユアセルフ〟の組織評議会も、決してあなた様の全てを疑っているのではありません。ですが、事実は事実として、我々の組織の潜入部隊一個小隊と、同朋の航空自衛隊所属中島中隊全機を撃ち落としてしまったことは受け入れてもらわねばなりません。これまでのあなた様の功績や信頼を鑑みれば、あなた様――鳴子沢小紋殿が故意に我々を裏切ったとは到底考えられません。……しかしですな、それはそれ、これはこれとして、あなた様の身柄を厳重に拘束せねばならないことはご了承いただきたいのです」

 組織評議会の一員であるアルベルト・サモア・佐藤執行役員は、その翡翠のように滑らかで、サファイヤのようにぎらつく視線を投げかけて彼女に状況を説明した。

「でも、僕は……サモアさん!」

 小紋は分厚い特殊合成ガラスで出来た壁の向こうから言葉を投げ掛けるが、

「ええ、その話は何度も伺いました。あなた様はこう仰りたいのでしょう? 僕は〝二分の一のサムライ〟を討とうとしただけだ。仲間を撃ち落とそうだなんてこれっぽっちも考えていなかった。仲間を撃ち落としたという実感さえなかった……と」

「はいそうです! 確かに僕はとんでもないことをしてしまいました。だけど……だけど、それは……!!」

 彼女は眉間にしわを寄せ、複雑な表情で必死に食い下がる。だが、

「実に難しい話です。あなた様の仰っていることがもし本当のことだったとしても、結果自体は何も変わりません。仮に、もしこの一件に関しての証明が出来て、あなた様の無実が証明されたとしても、同朋の尊い命は帰って来ないのです」

「サモアさん……!!」

「良いですか、鳴子沢小紋殿。人と人との信頼は、たとえ百年かけて積み上げたとしても、たった一日で崩れ去ってしまうものなのです。それが人間というものなのです……」

 この時小紋は、自らが何らかの潮流に巻き込まれていることをさとらざるを得なかった。

 自分が一番大切にしていたもの。それを今回の一件で根こそぎ崩されてしまったのだ。それが人と人との信頼関係の崩壊であることは間違いないのだ。


 

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