浮遊戦艦の中で94


 正太郎は、エナの言葉を聞いてから、一度天を仰ぎ、しばらくして鼻からフーっと強くため息を吐いたかと思うと、

「それは当然の話だよな。なにせ、そのためにこの仮想空間で様々なシチュエーションを試しているんだからな。……グリゴリの奴め。今頃ほくそ笑んでやがる頃だろうぜ」



 ※※※


 小紋が、反抗組織〝シンク・バイ・ユアセルフ〟の総括リーダーの座から失脚させられて幾日かが経とうとしていた。

 あの日――鳴子沢小紋が、同朋組織の二個中隊を彼女の凶弾によって壊滅させてしまった同日、羽田沖から上陸した巨大子猫の侵攻を防ごうとしていた南雲機動一個小隊までもが全滅するという憂き目に遭っていた。

 これは何も、同朋の絶対的なアイドルとして君臨していた鳴子沢小紋が、あのような謀反を起こしたということで統制が取れなかったという理由からだけではない。

 同時刻、暴れまわる巨大子猫に対し、南雲機動部隊は侵攻を防ごうとしていた。しかし、そんな南雲部隊の背後から時間差でもう一匹の巨大子猫が現れ、海沿いのエリアを中心に暴れまわったのだ。

「あの三毛猫タイプだけでも相当厄介だというのに、白と黒のと来たら、かなりのやんちゃで……」

「あの二匹が原因で街が壊されて行ってるのによ。突然変な連中がプラカードやら横断幕やら掲げ出して……」

「ああ……。あの連中さえしゃしゃり出で来なけりゃ、あのフェイズウォーカーの部隊だって全滅はまぬかれただろうによ。何しろ機体は荒神こうじん八型改ー改だったんだからよ」

「そうだよ、荒神こうじん八型改ー改を操る南雲機動部隊って言やあ、泣く子も黙る世界中のフェイズウォーカーパイロットの選りすぐりだったという話じゃねえか……」

「それなのによ、何でこうなっちまったんだ……」

 人々は、瓦礫となった東京のベイサイドの一帯をうかがいつつ、途方に暮れるしかなかった。

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