浮遊戦艦の中で84


 ※※※


「鳴子沢小紋――。コレヨリ、アナタカラ、組織ノ統括リーダーノ権利ヲ剥奪シ、ソノ立場カラ更迭シマス――」

 迅雷五型改のコックピット内に、人工知能〝疾風はやて〟の冷たい声が広がっていた。

 静まり返る東京湾内。穏やかな波に揺られるフライングボートの破片。快晴の空の下に煌めき立つ海面の間を、おびただしい残骸らが反射を遮っている。

 小紋は何も言葉が出なかった。この状況を見て、その資格すらないと感じていた。 

 残骸の欠片には、抵抗組織〝シンク・バイ・ユアセルフ〟の日輪の下に照らされるサルビアの花のモチーフが印されている。

 これは、彼女らレジスタンスの結束を示す組織の御旗である。

 人は、陽の光の下に皆が互いの伝統を重んじ、自主独立を尊重し、互いの繁栄を望むことを目指す。そのを意味をかたどったものがこの御旗の意味であった。

 小紋は涙を流した。涙を流さざるを得なかった。

 自らが先頭に立ち、信念を掲げて目的のために力を注いで来た組織の御旗を、今このようにして自らが壊してしまったのだ。

「そ、そんな……。僕はただ……」

 彼女は、私怨のためにこのような行動に出たわけではない。ただ彼女は、連れ去られてしまったクリスティーナや、その伴侶であるデュバラ・デフーの無念を晴らさんがために打って出たのである。

 しかし、

「反逆ノ動機ハ、組織ノ軍法会議上デ、述ベテクダサイ――。現在ノ時点デハ、緊急更迭モ、止ムヲ得マセン――」

 人工知能疾風は、その冷たい言い様に揺るぎがない。

「ま、待って、疾風……!! だって、僕は二分の一のサムライに攻撃を仕掛けただけで……!!」

「イエ、鳴子沢小紋――。今ハ現実ヲ、注視シテクダサイ――。アナタハ、コノヨウニ、同朋二攻撃ヲ、仕掛ケ、甚大ナル被害ヲ、及ボシタノデス――」


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