浮遊戦艦の中で83


 そう彼が諦めかけた時、

(ショウタロウ・ハザマ!! 今どこ? ようやくあたしの方の新しいプロテクトプログラムの再構築準備が出来たわ! 残すは、あなたの方だけよ!)

 エナが、直接頭の中に呼び掛けてきたのだ。

「エナか、出来たのか!? し、しかし……」

 正太郎は、巨大子猫の首筋に手をやりながら、大粒の汗を滴らせている。

(ダメなの? さすがのアナタでもそうなのね!?)

「あ、ああ……。何故かは分からねえが、俺にはこの子猫ちゃんを討つことができねえ……。何故かは分からねえが……」

(仕方がないわ。ここは一旦退き下がりましょう)

「いや、ここで退き下がれば、この目の前の街の住人たちに被害が及ぶ。そしたら、かなりの確率で住人の本体の命も危うくなる……」

(そ、そうね……。しかし、なんてことかしら。百戦錬磨のあなたにも倒せない敵が現れてしまうなんて。これが巨大人工知能の成長とも言うのかしら)

 二人はそろいもそろって愕然とするしかなかった。一人は、あの戦乱の時代を駆け抜けてきた風雲児。そして、もう一人はその好敵手として名を馳せた天才少女。

 しかし、彼らとて品性の無い人間として育って来たわけではない。時代こそ違え、命の価値観の希薄だった大昔であればこのような悩みを持つことはなかったであろう。

 いかに羽間正太郎が、あの戦乱を駆け抜けてきた寵児と言えど、元はと言えば現代的な価値観を植え付けられた一人の人間である。

 そんな彼に対し、この空間をつかさどる巨大人工知能は、その根幹たる部分を盾に攻撃して来たのである。

(このままではまずいわ。巨大人工知能は、ここで起きていることを糧にして、現実に投影してしまう。いえ……、もうすでに投影してしまっているのかも……)


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