浮遊戦艦の中で77


 小紋は驚愕した。それは、その大きさや唐突に現れたことに関してだけではない。

 なにせ、あの二分の一のサムライのお陰で、苦楽を共にした仲間のクリスティーナが連れ去られて行ってしまったままなのだ。そしてその伴侶であるデュバラが彼女を追い求め、組織がまとまりかけた時に小紋のもとを去って行ってしまったのだから、彼女にとって、二分の一のサムライとは一つの元凶と言っても過言ではない存在なのだ。

 以前に小紋らが二分の一のサムライに出会ったのは、あのピンク教団の根城に潜入した時である。

 世界桃色マカロニ教団こと通称ピンク教団は、人体を闇雲に機械化し、それで手に入れた力を誇示するための道具として世間を騒がせていたカルト集団である。

 しかし、一見して個人的な欲望の集合体でしかなかったあのピンク教団の一員である二分の一のサムライが、何ゆえに今になってこんな場所に現れたものだろうか。

「あの時、二分の一のサムライは言っていた。アイツは僕らに復讐出来ればいい。いや、アイツらは僕らを返り討ちに出来ればいい……。だから、その身を浮遊戦艦に売っちゃったんだ。自分の信条なんかどうだっていい。元々信念の無い人たちだから、そんなことは一切構わない。ただ、僕らにケンカを売って、それに勝っただの負けただの、そんなちっぽけなことにこだわってその身を売ったんだ。なんてくだらない考えの人たち……」

 二分の一のサムライは、その身を分割してことさら合体可能な特殊構造のリモート・アンドロイドである。

 それだけに、小紋の言う、

「あの人たち……」

 とは、複数人の遠隔操縦者によって操作されていることだけは確認できている。

「僕は許さないからね、二分の一のサムライ……。あの時、デュバラさんとの赤ちゃんをお腹の中に宿していたクリスさんを強引に連れさらって行ったその行為は、もう人間のやることじゃない!! ここで会ったが百年目。絶対にあなたたちを完膚なきまでに葬ってやる!!」


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