浮遊戦艦の中で73


 これは小紋に一筋の光明が差した瞬間であった。

 蓼科山岳基地所属の三島連隊と言えば、あの高性能戦闘機〝フェイズファイター〟を運用することで名を馳せている勇猛果敢な熟練部隊だからである。

 フェイズファイターと言えば、空戦を主体とした戦闘機のようなフォルムでありながら、サポート人工知能との連携を基に、瞬時にホバー陸戦形態に早変わりし、強襲揚陸制圧も可能にした高性能機である。

 しかし、この時世の混乱と各国々の経済破綻により、彼らの基地ですら、それらの高性能機を宝の持ち腐れにする羽目になっていた。

 どんなに横暴を振るう浮遊戦艦を目の当たりにしても、そう何度も攻撃を与えるわけには行かないのは、どの国の、どの自治組織の軍備もおなじところ。

 なぜなら、それを維持する人員も物資も足りていなければ、肝心のエネルギー源となる燃料も足りていない。何といっても武器の類いすらなかなか補給がままならないからだ。

 そんな中での運用は、かなりの覚悟とかなりの決断を要する。ここぞと決めた場面でそれらを運用しなければ、ただの犬死にになってしまうからだ。

「それを、あんな遠くの基地から出て来てくれたってことは、三島連隊長さんも風の流れを読んだってことで良いよね……」

 小紋の操縦桿を握る小さな拳に、ぎゅっと力が入る。

 疑似暗礁空域に、融合種ハイブリッダーたちは、まるで砂糖に蟻が群がるように集まって来る。百体は下らない大型化した融合種が一か所に集まって来るともなれば、さすがに手練れの小紋ですら気後れしてしまう。

 だが、

「こちら蓼科山岳基地所属、三島連隊フェイズファイター部隊〝神吹雪〟中隊の中隊長の中島一尉です――。そこにおられる同朋のフェイズウォーカーに通達します――。これより、我が中隊は敵の第一防衛となる融合種を一点突破し、対象の浮遊戦艦のどてっ腹に風穴を開ける作戦に出ます――。よって、そちら側は当初の作戦通り、揺動を終えたのちに、潜入を開始してください――!!」

 迅雷五型改のコックピットに、いかにも丁寧な言い様の無線が入った。




 

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