浮遊戦艦の中で63
この小紋の焦りは、まさしく組織全体の焦りでもあった。
今までは、武力をもってして人々の奪還に尽力を注ぎ、さらにはそんな奪還された人々の体験を基に浮遊戦艦側の目的をおぼろ気ながらもはかり知ることが出来た。
しかし、そんな奪還作戦で得た情報や奪還された人々の数は、拉致や拿捕された人々に対しての氷山の一角であり、こう何度も派手に現れてかどわかされては労力と命の対価としてかなり効率の悪いものであった。
それでも彼らはあきらめずに浮遊戦艦側に徹底抗戦を敷き、ここまでやってきたのだ。
だが、こうして新たなる奇策ともいうべき攻撃を仕掛けられては、心の遣りどころに困る。
そこに、
「鳴子沢リーダー。南雲です。南雲三尉であります。こちらも現状の通信を受け取りました。……このような状況で指示を仰ぐのも心苦しいのですが、ご指示をお願いします」
その南雲三尉の苦り切った表情に、小紋も何と答えれば良いのかが分からない。
「先ずは攻撃を……」
「攻撃を? どちらに……?」
「浮遊戦艦側に……いえ、あの猫ちゃんに……」
「お言葉ですが、鳴子沢リーダー。あのような対象を完膚なきまでに攻撃すれば、我々の組織への風当たりが強まること必至です。昨今の風潮を考慮すれば、人々は実を取るより、見た目での判断が顕著であります。しかも、我々の組織は日本と言う国家と言うより、日本に住む数々の人々の協力と支援によって成り立っている自警組織です。ここは先ず、あの巨大な子猫を取り押さえて、これ以上街への侵攻を防ぐことに尽力を注ぐべきかと進言致します」
「そう……その通りですね、南雲三尉。僕も貴官のおっしゃる通りだと思います」
言うや、小紋は通信回線を作戦本部に切り替えて、
「シュミッター元大佐。今の南雲三尉の進言をお聞きになりましたか? 僕は南雲三尉と同意見です。ここは直ちに作戦を変更し、あの巨大な猫ちゃんの侵攻阻止を作戦目的とします」
「了解しました、鳴子沢リーダー。即刻、フェリシア中尉にその電文を各支部に通達させますので、リーダーはそのまま作戦行動に当たって頂きたい」
「了解しました。それでは回線を切ります……」
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