浮遊戦艦の中で64


 小紋は、自分の至らなさに辟易した。まるで駄目だ。まるで何もなっていない、といった具合で。

「それでは南雲三尉。三尉たちの小隊は、現在対象が街を荒らしている地点に急行し、その進行を阻止する任務にあたって下さい。僕は羽田沖に滞留している浮遊戦艦に直行し、現場がどうなっているかを把握します」

「了解しました。我々南雲小隊は、指示通り攻撃を受けている現場に急行します。……しかし、鳴子沢リーダー。お一人で大丈夫ですか?」

「ええ、心配要りません。僕はこう見えても、少し前はヴェルデムンド新政府のエージェントだったんですよ? それなりの厳しい訓練を受けて来ていますからね。そのご心配には及びません」

「これは失礼致しました。人は見た目で判断しがちです。本官から見て、リーダーはとてもか弱い女性に思えて仕方がないものですから……。しかし、それはリーダーに対する侮辱であり、何しろそんなことは本官の杞憂でしかありませんな。なにせ、リーダーは、あのヴェルデムンドの背骨折りの唯一のお弟子なのですから」

「そ、そういうことです、南雲三尉。……これより南雲小隊は、与えられた任務に従って行動して下さい。そして、他の友好組織と共同戦線を張って、これ以上の被害を出さないように尽力して下さい」

「ハッ、了解です。しかし、鳴子沢リーダー……」

「はい? どうしました、南雲三尉?」

「は、はあ……。これは差し出がましい申し入れかも知れませんが、決して無理などはなさらぬように……。我ら小隊一同、リーダーのお身体を案じております」

「……有難うございます、三尉。それでは……」

「それではご武運を」

 言って彼らは、小紋の駆る迅雷五型改と方向を違え、海上にコの字を描いて風の如く去って行った。

 小紋にとって、これからが正念場である。彼女は、どうしてもあの海上に滞留する浮遊戦艦に取り付いて、浮遊戦艦側の真の意図を推し量りたいのだ。

(南雲小隊があの猫ちゃんにかまっている間にも、浮遊戦艦側は何か別の策を講じている筈だ……。確かに、シュミッター元大佐の言うように、浮遊戦艦側が直接的攻撃を仕掛けて来たのは初めてのことだけれど、どうしても僕にはそれだけではないような気がするんだ……。先ずは、それを突き止めないと」


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