浮遊戦艦の中で57


 正太郎はどうやら吹っ切れたようである。

 確かに子猫は可愛い。だがしかし、確かにそれが事実であっても、沢山の人々を死に追いやる可能性だけは排除したい。

(そうだ、コイツを使えば……!!)

 正太郎は、咄嗟に腰ベルトに携えていた特殊警棒デュアルスティックのことを思い出した。これならば、なんとかなるかもしれぬと、先ずは一本だけそれを抜き出し、

「すまんな、飛び切りでっけえよう。少し我慢してくれや!!」

 言うや彼は、特殊警棒デュアルスティックの超振動スイッチをオンにすると、巨大子猫の首周りにそれを叩きつけた。

「うみゃあ――!!」

 案の定、秒速一万回以上を誇る超刺激的な振動によって、巨大三毛の子猫は悶絶し、そこで急激に立ち止まった。その勢いで、正太郎の身体も右へ左へと跳ね飛ばされそうになるが、彼はそこで必死でしがみつき、何とか事なきを得る。

「あ、あぶねえ……。もう少しで地面に叩きつけられるところだったぜ。そうなりゃ、この俺だって本体ごとショック死確定だからな……」

 ギリギリではあるが、何とか彼は巨大子猫の住宅街への進撃を止めることが出来た。しかし、今の衝撃で彼の腕の力もしがみつくのがやっとである。全身が脂汗でべっとりとし、恐怖を感じたアドレナリンの作用で鼓動が今にも破裂しそうなほど早鐘を打っている。

「こりゃやべえな……。またこの子猫ちゃんが暴れ出しても、同じことをやってのけられる自信がねえぜ……」

 正太郎はいつになく弱気である。しかし、これは確かな事実であり、現実と言う戦場を駆け抜けてきた彼にとっての冷静な分析結果である。

 今の一連の出来事を彼以外の人物が同じように行おうとしても、それは無理な話である。もし、それを他の人物が行ったとすれば、巨大子猫が疾走した時点で気を失うか、もしくは激しい振動によって振り落とされてしまっている可能性が高い。

「やべえぜ……。だからってよ、このまま好き勝手にやられれば、沢山の死人が出ちまう……」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る