浮遊戦艦の中で㊳


「と言うことは……羽間さんの存在が鍵になるってことですか!?」

「いえ、そうではありません。その逆です。ミスターハザマの存在が鍵になるのではなく、のです」

「鍵にしてしまうですって? 羽間さんの存在をですか?」

「ええ、そうです。あくまでここはこの絶対的不利な状況に対して、我々が受動的である必要がありません。ならば、ミスターハザマという〝JOKER〟をこちらからちらつかせることによって、相手方をけん制するのです」

「なーるほど、そういうことですか。大佐は、羽間さんの存在を〝JOKER〟だとおっしゃいました。つまり、浮遊戦艦を仕掛けた側も、フォール・アシッド・オー側も羽間さんの存在を〝JOKER〟だと認識していることが前提というわけですね」

「ええ、鳴子沢リーダーの仰る通りです。私が認識する限りでは、ミスターハザマはある意味特殊な存在であると考えています。それが証拠に、近年出回っている戦闘用リモート・アンドロイド――〝リモノイド〟の素体として〝ハザマショウタロウモデル〟というシリーズが未だ人気を博しておる状況です」

「ええ。僕も三年前の〝ピンク教団〟での戦闘の際に、〝二分の一のサムライ〟と自称する〝リモート・アンドロイド〟と戦う羽目になりました」

「それはさぞお辛かったでしょう。心中お察しします。あなたの敬愛するお師匠の姿をした敵と戦わねばならない。それこそ奇遇とは言え、それほどまで彼は百万人規模で影響をお与えになる存在と認識して良いはず……」

「そうですね。でも僕は逆に、羽間さんとまるで中身の違う相手にいきどおりを覚えました。だから何とか勝てました。あんな中身すっからかんの羽間さんなんてあり得ないって思って……」

「そこなのです。あの方をよくご存じのあなただからこそ、その考えに到達する。それだけでも彼はあなたに良い意味での影響を与えておることになる」

「なるほど、そういうことですか。その逆に、あの〝二分の一のサムライ〟というリモート・アンドロイドを動かしていたは、表面上の羽間さんという存在しか分かっていなかった」

「正にそこですね。一般的に言われておる〝ヴェルデムンドの背骨折り〟という影響力とでも申しましょうか、しかし、それこそが私の考える付け入る隙なのです」

「付け入る隙?」

「ええ、あのお方が――そう、あなたのお師匠であるミスターハザマという一般的に考えられておる認識を利用することが今回の要です。彼がここにおられようがおられまいが、あの方のそういったステレオタイプの影を上手くちらつかせることが出来れば、何らかの勝機も見えて来るのかもしれないということなのです」

 

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