浮遊戦艦の中で㊱


 確かに大佐の言う通りだった。

 彼女は、目の前に居る元大佐より羽間正太郎との付き合いは短い。しかし、師匠と愛弟子という関係から見れば他者より深い付き合いをしたことになる。それだけに、元大佐の言葉の意味を納得するだけのケースを沢山見てきている。

 しかしそれだけではない。

 何せ彼女が羽間正太郎と言う人物に多大なる興味を抱いたのは、まだ彼女が十代の乙女盛りの時。

 そんな、まだ右も左も分からぬ少女のころに、授業で習った羽間正太郎という人物に関心を持ち、あの弱肉強食の世界まで半ば強引に渡航してしまったきっかけは、あの一枚のスナップ写真の笑顔に惹かれてしまったからである。

(そう……僕は、あの羽間さんが写った写真を手に入れた時から、あの世界に行くと心に決めたんだ。あの人のあんな笑顔に会うために。確かにそうだね。羽間さんの笑顔には、それだけの力があるんだ。あの人には何かを一変させちゃうだけの力があるんだ……)

 人は、良い意味でも悪い意味でも、こうと思い込めば岩をも通す力を得ることが出来る。羽間正太郎は、そんな力のきっかけを人に与えられる男なのだ。

「そうか。大佐のおっしゃる通り、羽間さんが居れば百人力だね」

「いいえ、お言葉ですが、鳴子沢リーダー。それは違います」

「え? えーと……百人力は言い過ぎだったかな。いくら僕のお師匠でも、それは言い過ぎだったね……」

「そうではありません。私が言いたかったのは、ミスターハザマがここに居れは、千人力……いえ、百万人力と言うことです」

「ひゃ、百万人力!?」

「ええ、そうです。どうやら鳴子沢リーダーはミスターハザマを見くびっておいでです。私は事実、この目で、あのヴェルデムンドの戦乱という檜舞台で彼の活躍を見た参りましたが、彼はそれだけの活躍を十分以上に果たしていました。戦場は生き物です。そして、戦場は必ず死を伴う場所です。そんな所で、彼はいかに死人を出さぬように、そしていかに戦乱をいち早く収めることが出来るのかを模索して事にあたっておりました。確かにそれは理想論なのかもしれません。ですが、その理想論を掲げることによって、彼は多くの人々の賛同を得たことも事実。そして、その理想論を現実のものとして作戦遂行にあたったことも事実。そして、その理想論を基に数々の実績を上げたことも事実。しかしてそれは、百万人力と彼を形容しても過言ではないことであると私は思うのです」


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