浮遊戦艦の中で⑦


 正太郎がそう心の中で叫んだ瞬間、突如彼の中で異変が起きた。

(な、何だ……!? 一体何が起こったんだ!?)

 そうこの時、羽間正太郎の視界は一枚の絵でも見ているかのように動きが止まっていた。いやそれだけではない。何と、何体にも及ぶ凶獣ヴェロンらの動きがまるで連続写真のようにコマ送りになって見えていたのだ。

(こ、これはどういうこったい!? 何でこんな風に見えているんだ!? 俺の目が、おかしくなっちまったのか!? それとも、もう俺ァあの世に連れて行かれちまったってのか!?)

 正太郎は唖然として辺りを見渡した。が、どうやら死んだ様子ではない。

 そしてさらに驚くべきことがあった。

(嘘だろ? こ、こいつらの動く先から先まで見えてるってのか!?)

 そう、彼の視界には、凶獣たちの過去の足跡のみならず、先々に飛んでゆくであろう軌道までもがコマ送りになって見えてしまっているのだ。

(そ、そんな……!? 何かの間違いじゃ……。俺ァ、一体どうなっちまったんだ!?)

 正太郎は恐る恐るもう一度辺りを見渡す。が、どうやら彼の視界に映るもの全てがこのように過去の出来事も未来に起こる出来事もコマ送りになって見えてしまっているのだ。

 正太郎は、余りの出来事に焦りと戸惑いを見せる。が、これはどうやら現実のようだ。

 しかしこれこそが、ゲネック・アルサンダールを始めとした〝黄金の円月輪〟にいにしえより伝わる【三心映操の法術】の表れだということはこの時点で彼には分らない。

 どうやら彼は、追い死に迫ったこの状況によって、この究極の知覚とも言える【三心映操の法術】を発動させたようである。

(どういうことかは良くわからねえ……。だが、こうなったら一丁やってみるか!!) 

 彼本人も動揺は隠しきれなかった。が、この特異なる状況をして全てを受け入れるしか方法はない。

 正太郎は、動きの止まったように見えている全てのヴェロンの位置を把握すると、それぞれの軌道を追い、そこから自分がこの危機的状況から脱出出来る退路を模索した。それしか生き延びる方法がないからだ。


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