浮遊戦艦の中で⑥


 正太郎に成すすべはなかった。

 縦横無尽に迫り来る凶獣ヴェロンの群れ。その激しい体当たり攻撃は、故意に落下させぬよう羽根突きの要領で彼の身体を上空へ上空へと跳ね飛ばして行く。

 その体当たりの激しさで彼の全身は痺れ、激しい裂傷を負い、当然意識が雲のかなたに遠のいて行った。

(こ……これが……。凶獣とまで呼ばれた……ヴェロンの力……なのか……)

 意識が薄れゆく中、彼は真の意味で自らの〝死〟を予感した。

 確かに今まで生きてきた人生の中で、自らの〝死〟を感じる場面は幾度ともあった。

 それは、日次新之助博士のフェイズワーカーの実験での特訓でもしかり、その後に彼がこの戦乱前のヴェルデムンド世界に渡り、危ない橋の商売に手を出したときも然り。そしてさらに、彼がゲネックと知り合う前に凶獣の襲来を受け、命拾いして感じたことも然りである。

 だが今は違う。決定的に何かが違う。

(お、俺ァ……まだ何もやり遂げちゃいねえ……。何も掴んじゃいねえ……)

 そう、彼の若き人生の中で、いくら生と死の狭間を彷徨さまよった体験をしたと言っても、それは彼が〝死〟に身を委ねていたに過ぎない。つまり、その若さゆえに、無謀な考えによって行き当たりばったりで〝死〟の直前に立たされて居たに過ぎないのである。

 しかし今は違う。

 彼には遥かなる目標が出来ていた。壮大な、しかしまだ手が届くところにさえ行っていない着地点を見据えていた。それが――

(俺ァ、おやっさんを……ゲネック・アルサンダールという大きな男を超えたい!!)

 というものである。

 それまでの彼は、力こそが強さの根源だと思っていた。技術を含めた圧倒的な力量こそが強さだと思っていた。

 しかし、ゲネック・アルサンダールとの邂逅によって、その考えが一変した。

(強さは腕っぷしの強さだけを意味するもんなんかじゃねえ! 強さってのは全てを抱え込んで受け止められる力のことなんだ! 俺ァ、そんなゲネックのおやっさんを超えたいんだ!!)

 

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