フォール・アシッド・オー76



 さすがの春馬も自らの言動に気恥しくなり、ウォホンと拳を顎に添えて咳ばらいをすると、

「ああ、とういうかな小紋よ。元に話を戻すが……しかして、そのエージェントから受けた私への依頼は、――。――だったのだ」

 すると、それを聞いて小紋は、

「ということは……兄さん。兄さんは、次元渡航ターミナルが閉鎖されてしまってからの三年もの間、一銭にもならない仕事をコツコツと遂行していたってわけ?」

「ううむ、そうやって改めて言われてしまうと情けない話なのだが……実はお前の言う通りなのだ。私は個人的な経営者という立場にありながら、何の儲けもないこの依頼を地道に遂行していたことになる」

「ふうん。何だかとっても春馬兄さんらしいや。……でも、そうやって間接的に羽間さんの手助けになってくれていたのなら、僕はすごく感謝しちゃうよ。ありがとうね、兄さん」

「はははは……。いやあ、それほどでも……」

 鳴子沢春馬という男は、比較的に知能は高い。が、かなりの天然者である。純粋と言えば聞こえは良いが、普段の生活はボケかましの連続である。

 とは言え、ひとたび目的に向かえばそれをかなり高い確率で遂行することが出来る。これはひとえに、彼の人柄を示すものだと言ってよい。

 子供のころから仲が良かった小紋は、そんな兄の裏腹な特徴をよく知っている。ゆえに、兄はきっとそういったな振る舞いがあってこそ、あの白狐のヴィクトリアの目でさえすり抜けてフォール・アシッド・オーなる組織に潜り込むことが出来たのだと思えるところがある。

(あの白狐のヴィクトリアという人――。あの不思議な女の人は、目こそ不自由なのかもしれないけれど、それ以上の何か不思議な感覚を持っている。春馬兄さんはこんな人だからこそ、あんな怖い人のでさえ潜り抜けることが出来たんだよね……。これがもし僕だったらって考えると、いてもたってもいられないよう……)

 小紋は、まさにこれが自然の成り行きであり、故意的こいてきな考えでは作り出せない役割なのかと思えた。

「そうか、そういうことだったんだね。ということは、僕たちがここに乗り込んだ時、変な爆発が起こってあの部屋に僕たちを誘導させたのも、もしかして春馬兄さんだったんだね!」





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