フォール・アシッド・オー75
「小紋よ。最初の問いで、なぜこの私がこの場所に現れたのかと言ったな」
「うん……」
「それはな、小紋よ。それはな……私がマリダ女王陛下
「え? ええええっ?」
小紋は、兄春馬の衝撃の告白に顎が元に戻らないのではないかと思った。まさかこんなポンコツが、あの大国のエージェントであるはずがないと……。
だがしかし、
「事実は事実なのだ、小紋よ。私は父上や兄貴のように優秀な男ではない。それは自分でも心得ているつもりだ」
「そうだね、春馬兄さんは昔から優しくて頭は良い方だったけれど、お父様や一真兄さんみたいに非常に優秀と言うより、どっちかって言うと天才肌と言ったほうが当たってるもんね」
「ふむ。そう言ってくれると非常に救われるというものだ。しかし、お前も解かってのように、私のような男の能力ではこの社会ではかなり生き辛い。あの頃の私は、何となく世界を見たくなって旅に出たわけだが、旅の途中で子供のころから貯め込んでいた小遣いも底をついてしまったのだ。挙げ句、私は繁華街の皿洗いや、いけ好かぬ派手な女人たちの接待のアルバイトなどをするようになってしまって……」
「そ、それって……兄さん」
「ああ、一時は私も落ちるところまで落ちたものさ。まあ、それでも全く救いのない仕事というわけでもなかったからな。しばらくはあの世界の様々な繁華街でそんな生活を送っていたのだが……」
「いたのだが?」
「いたのだが、どういうわけか、こんな私でも少しずつだが相手の心が読めるようになって来たのだ。そう、この客は何を欲しているのだとか、何を悩んでいるのだとか……」
「え? それって普通のことじゃないの?」
「いや、違うのだ小紋。その何というか、相手の顔や仕草、そして言動を見ただけで、相手の心の裏側が何も考えずに見て取れるようになってしまったのだ」
「それって、もしかして超能力ってやつなの?」
「そうじゃない。そんな簡単便利なものではない。だが、百パーセントとまでは行かないが、私はなぜかそういう能力を自然に開花させてしまっていたのだ。うむ、そう、私は今まで付き合ってきた女人どもから〝天然〟などと揶揄されることもある。しかし、無性に他の者たちには見えぬ何かが見えてしまい過ぎる時があるのだ」
「もしかして、それで探偵さんに?」
「うむ、その通り。それで私は夜のアルバイトついでに探偵業に勤しむようになったのだが、これがまたあまり儲からず……」
「もしかして、それでペルゼデール・ネイションのエージェントに?」
「ふむ。まあ、とは言え……私自身は、大手を振ってエージェントなどとは言えんのだがな」
「え? だって、その国に雇われたら、それってその国のエージェントっていえるんじゃないの?」
「いや、違うのだ」
「どこが違うの?」
「うむ。まあ、少し情けない話になるのだが、私は直接国家に雇われたエージェントなどではない。そう、国家に雇われたエージェントに情報を提供する……情報屋。まあ、エージェントの下請け業者ってなところだな」
「エージェントの下請け業者?」
「ふむ。そうだ、下請けだ」
「そ、それで……それで、春馬兄さんはどうしてこうなったの?」
「うむ、その質問な。そう、あれは三年前。私が、そのエージェントらとさる契約を交わし、地球の内情を探るためにこちら側に渡航した。その途端に、唯一無二の玄関口である
兄春馬は大真面目な表情で言い切る。
「ああ、そういうこと……」
妹小紋は苦笑いで言葉を返す。
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