フォール・アシッド・オー㊴


 デュバラは防戦一方となっていたが、意を決して拳を繰り出した。それと同時に両翼から幾重もの光輪を二分の一のサムライに向かって打ち出したのである。

(小細工が通用しなんだら、こ奴相手には力押ししか残っておらぬ!! どの道我らは崖っぷちなのだ。この俺が力尽きれば三人とも共倒れになる。なれば、残された力を存分に活かすしか方法が無い!!)

 デュバラの怒涛の攻撃は雪崩のように容赦なかった。容量で相手を攻める〝六道邪神烈波りくどうじゃしんれっぱ〟が駄目なら、今度は手数で相手を圧倒する手立てしかこちら側には残っていない。

(さすがにこの男は〝三心映操の法術〟の使い手だけあって、よほど特殊な〝目〟を持っている。それだけに手数で物を言わそうとしても無駄なのは先刻承知。しかし!! 今はそのような机上の空論を考えている場合ではない! この俺の力がついえるのが先か、それともこ奴の力が果てるのが先か、それが勝負の別れ時なのだ!!)

 デュバラはもう覚悟を決めていた。本能からも論理からも、二分の一のサムライとの力の差は歴然としている。背後には小紋やクリスティーナが控えているが、どんなに数を装っていても類稀な頭脳と力量を備えた相手では烏合の衆であると自らを蔑むしかない。

 であるがゆえに、ここは力の出し惜しみなくやれるだけの事はやって、そしていさぎよく死を迎えるのが上等であると考えたのだ。

(許せよクリスティーナ。許せよ小紋殿……。俺の力ではそなたたちを守り切ることは出来ん。如何せん、このような化け物相手では、俺のように人ならざる者と姿かたちを変えても到底及ばぬ世界なのだ。なれば……!!)

 デュバラ・デフーは飛んだ。両翼を目一杯広げて飛んだ。両翼の羽根の一枚一枚に魂を込めて、その羽根が潰えるまで力の限り光輪を打ち出した。さすがに怒涛の光輪の雨あられに、二分の一のサムライは防戦一方となった。

 しかし、両翼に生えそろった羽根の数には限界がある。いくら凶獣ヴェロンの王とまで呼ばれた存在と融合を果たしたデュバラとて、命のやり取りは無限ではない。

(死して尚、死の境地を迎えるべく俺は撃ち尽くす!!)

 デュバラがそう意を決した時、

《デュバラ・デフーよ……。我が半身、デュバラ・デフーよ……》

 デュバラの心の中に呼び掛ける声があった。


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