フォール・アシッド・オー㊵


(な、何だ!? 誰なんだ!? 俺の頭の中に直接話しかけて来るその声は……!?)

 デュバラは攻撃の手を止めるまでもなく問うた。すると、

《我だ……。ヴェリダスだ……》

(ヴェリダスだと? ああ、俺の中に居る凶獣ヴェロンの王か。普段より言葉数の少ないそなたが、戦いの最中に話し掛けて来るとは珍しいこともあるものだな)

 ヴェリダスとは、あのヴェルデムンドと呼ばれる弱肉強食の世界で最も強靭な身体を持ち、最も統率力を示したヴェロンの王の中の王である。元来、ヒエラルキーの頂点に存在した肉食系植物は知的な生命活動を行っていなかったが、何者かの手によって〝知恵〟を得たことに因りそれらは進化した。その中でも凶獣と呼ばれたヴェロンはいつの間にか徒党を組むようになり、最も優れた存在を王とするようになった。ヴェリダスはそんな王と呼ばれるに相応しい逸材であったのだ。

しかりだ……、我が半身デュバラ・デフーよ。我はなんじに折り入って話したいことがある》

(俺に? このタイミングで……?)

しかりだ、我が半身デュバラ・デフーよ……》

 デュバラは攻撃の打つ手を止めず、懸命にその声に耳を傾けずにはいられなかった。いくらこの絶望的に逼迫した状況であっても、その声に多大な意味が隠されていることを悟られずにはいられなかったからだ。

 その凶獣ヴェロンの王とまで呼ばれたヴェリダスの存在は、珠玉の繭玉を使用し融合種ハイブリッダーとして禁断の融合を果たした時からその存在の大きさを自らの身体の中に感じていた。しかし、当のヴェリダスは常日頃より言葉数が少なく、彼に意見してくることなど今までには有り得なかった。

 そんな凶獣ヴェロンの王ヴェリダスが強引なまでに言葉を放とうとする。ここに意味を見出さざるを得ないのは、そんな背景があっての事である。

(して、半身ヴェリダスよ。この俺に話したいこととは何だ?)

しかり……。汝は、このまま何も成し得ぬまま死を迎えるつもりか……?》

(な、何を言う!? 俺はこ奴に負けなどはせん!!)

《否……、嘘を申せ……。汝はここで命ついやせるつもりだ……》

 デュバラは一瞬言葉を詰まらせた。彼らは融合種なのだ。意思疎通を超えた真意が否応なく共有されている。

(ふむ、そう言えばそのようだな。さすがは俺の半身。隠し事は出来ぬということか……)

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