フォール・アシッド・オー㉚

 叫ぶや否や、小紋のトンファーが二分の一のサムライの鎧を打ち続ける。そのたびに先端に仕掛けられた電磁式衝撃増幅装置がその威力を増加させ、相手に目に見えないダメージを与えて続けて行く。

 小紋の狙いは明らかに功を奏す。

 どんなに相手が〝三心映操の法術使い〟だとて、こちら側も同じ感覚の持ち主である。

 三心映操の法術――

 その感覚を持った人々に見えている世界は独特である。言わば、よほど精神が集中し、その状態が研ぎ澄まされれば研ぎ澄まされて行くほど、自分とその相手とを第三者の目でじっくり観察している感覚に囚われて行くのである。それゆえに、行動を起こしている状況と、自らの起こり得る状況、そして起きてしまった状況までもが同時に認識出来て行くのである。

(これは見えているんじゃない。相手がどう動いて、どう動き終えるのかを空間全体で感じるんだ! 羽間さんはそう言って僕をずっと鍛えてくれたんだ。これは、羽間さんが僕に教えてくれた体術訓練の基礎中の基礎なんだよ!!)

 小紋のトンファーを打つ手は留まる事を知らなかった。彼女の三心映操の法術の確実性は、三年前よりずっと増している。望まぬこととは言え羽間正太郎の元を離れ、女の身でありながらクリスティーナとデュバラ・デフーとの鍛錬を繰り返すうちに、彼女は途轍もなく技と感覚を上達させた。さらに言えば、三心映操の法術と呼ばれるこの感覚をもマスターしかかっていると言っても過言ではない。彼女はそんな領域まで達して来ているのだ。

 そんな彼女の息もつかせぬほどの攻撃にあっては、さすがの二分の一のサムライとて手をこまぬくしかない。

(なるほど、さすがは小紋殿だ。相手は〝剛の者〟。すなわち、緻密な戦略を立ててこそいるが、実のところは大刀を振り回し、力技で相手を薙ぎ倒そうとする豪剣技。そしてこの俺は、根が職業柄ゆえの急所を狙い定める必殺必中の死を呼ぶ暗殺技。それゆえに、俺の技は二分の一のサムライに見透かされていたと言うことになる……。なにせ狙いが急所であるならば、あ奴はそこを防御するかかわすかをすればよいのだからな。小紋殿はそんな俺の弱点を身体で示してくれたということなのか……)

 デュバラは、小紋の繊細かつ何らかのセオリーに囚われない動きを見てそう悟ることが出来た。小紋はデュバラ・デフーに言葉で伝えなくとも、その突破口を行動で示したのだ。


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