フォール・アシッド・オー⑮



 デュバラはさらにえる。

「真の男子、真の女子の本懐たるものを逸脱した究極の自己愛主義者どもよ、その腐った耳穴をかっぽじいて俺の言葉をよく聞け!! 貴様らのように世の中への怨みつらみを偽りの力で表現するなどはまさに愚の骨頂!! さらに自らの信念無しに力の強い者に媚びへつらうなど最早論外である!! このまま己の生き恥を上塗りしたくば、このチャクラムの錆となり土に還るが良い!! その曲がった性根を今にも叩きのめしてくれようぞ!!」

 暗殺者の道を辞め、クリスティーナとの邂逅かいこうによって愛に生きる事に目覚めたデュバラ・デフーである。彼のその言葉には一片たりとも曇りがない。彼らしい真っ直ぐな情熱の行き所がそこにあるだけだ。

 しかし、カルトと化した教団の私兵どもに、どれほど彼の思いが沁み入ったものであろうか。

 彼らはこの集団に属してこそ、自らのアイデンティティを保持することが出来る。彼らはそれ以外に自己を確立するすべを知らぬ。他のどこにも自分の居場所がないからだ。

 そんな私兵たちが追い詰められた時に取れる行動はただ一つ。行きつく所まで行くだけである。つまり、自らと世界の破滅を望むものである。

 案の定、言われて私兵たちは、とち狂ったように三人に特攻をかまして来た。ある者は手持ちのレーザー槍を最大出力にして振り回し、またある者は味方もろとも所構わず銃を乱射し暴れまくる。

「憐れ……!! 追い詰められた兎の方が死に様として誇り高い」

 デュバラは言うや、さらに隠し持っていた複数のチャクラムをふところから取り出すと、

「滅びの心、全て滅び給うべし――!!」

 静かに念を唱え、それを目にも止まらぬ速さで四方に投げつけたのであった。

 チャクラムは数条の光の筋となって幾重にも混じり合う螺旋模様を描く。その螺旋模様が私兵の横を通り過ぎると、

「ふぐっ……!!」

「ぐひゃ……!!」

「じゃいっ……!!」

「まへっ……!!」

「げへぇ……!!」

 代わる代わる情けない悲鳴を上げながら、四肢を八つ裂きにされた男たちがばたりばたりと倒れ込ん出行く。デュバラの放ったチャクラムが、容赦無しに彼らの機械の部分よりどころを破壊し尽くしたのだ。

「なまじ、そんな使えもせぬ玩具おもちゃなどに心を奪われるから身体の精進を怠るのだ。貴様らはそれで人類の革新を迎えたつもりなのだろうが、少なくとも革新を迎えたのは機械のみだ。よって己自身によるものではない。そこのところを深く考えるのだな……」

 言ってすぐさま振り返ると、彼はひるがえって来た複数のチャクラムを両手の二指で軽々と受け止めた。

 最早、デュバラにとってこの死のわざは、ひとえに死のわざというわけではなくなっていた。それはもう、破滅の心を滅する術となってその意味を変えていたのだ。

 だがしかし、それを良く思わぬ者も居る――!!




 

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