フォール・アシッド・オー⑯



 デュバラが事なきを得、二人の元へ歩み寄ろうとしたその時、

「む……!! 何奴!?」

 彼の背後から新たなる気配が感じられた。その気配は途方に大きく、あからさまに醜悪さを含んでいた。

「我ら高貴なる信徒にお前のような下賤な者が説教などとはおこがましいにも程があるぞ! 進化に取り残された猿公えてこうの分際で、少しばかり腕が立つからといって機械の身体を貶めるとは、なんとも嘆かわしい!!」

 数多の半死の屍の奥から、数体の人影が現れた。まさに死の余韻にでも浸るでもなく、この光景をうれうでもなく、わけもわからぬ不敵な笑みを浮かべつつ、輩共は嫌な吐息を撒き散らしながら歩み寄って来る。

「あ、あれは!? ね、ねえクリスさん! あの人たちは……!!」

「そ、そうだわ! あの人たちは、昨日の電車の中で春馬さんと揉め事を起こしていた人たちだわ!!」

 小紋とクリスティーナは不穏な声を上げた。

 確かにその人影には見覚えがある。一人は頭二つほど抜きんでた体格の良い大男。二人は長身細身だが、筋肉質で俊敏そうな双子の男女。その周りには、いかにも腕に覚えのありそうな数名の男女が寄り集まっている。

 しかし、その中でも格段に他と違う存在感を見せているのは、黄金の派手な仮面を被ったなんとも肢体の美しい女である。女はドレスのような煌びやかな衣装をまとい、いかにも集団の長であるかのような雰囲気を醸し出していた。

 それらはいずれも機械の四肢を装着しているだけでなく、昨日のように幾本にも及ぶ触手のような腕を背中から張り出させている。彼らはいずれも半分以上を機械に換えてしまったサイボーグであることは間違いない。

「二人とも……。あれが昨日言っていた暴漢たちか!?」

 デュバラが言うと、

「暴漢とは、これはまた恐れ入ったものだな。その言葉はそのままお前たちにそっくり返すとしよう。我らをことごとく侮辱し、あまつさえ過剰な暴力をふるって飛んでその場を逃げ去ったのは、そこに居る女どもではないか!? この状況をしてどの口が言えたものか!!」

 派手な女の側近らしき大男が、どすの利いた声で怒鳴り散らす。 

「何を言うの!? そちらこそ、散々寄ってたかって人を甚振いたぶろうとしておいて、良くそんなことが言えたものね! 加害者が被害者ぶるのはおよしなさい。いい加減見っともないから!!」

 気の強いクリスティーナが、間髪入れず言い放つ。

「おおう、これはまた美しいお嬢さんだ。気の強そうなのが玉にきずだが、それはそれでいじめ甲斐がある……」

「な、何? いじめ甲斐ですって……!?」

 

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