フォール・アシッド・オー⑭


 


 

 小紋は待ってましたとばかりに、腰にたずさえていた二丁の電磁式トンファーを差し出し、それを持って構えた。

 突進してきた男は大上段からレーザー槍を打ち下ろしてきたが、

「そんなもの!!」

 小紋は軽々と相手の動きを見切り、右腕のトンファーでそれを受け流す。レーザー槍は先端からレーザーの刃先が出ている。触れれば大怪我では済まない武器である。しかし彼女は、そんな刃先への恐怖を微塵も感じさせぬ間合いで槍を根元からへし折ると、

「えいっ!!」

 と、気合の入った声を上げ、もう片方の腕で男のどてっ腹に電磁式トンファーの先端をめり込ませた。

 小紋に一切の隙は生まれなかった。男は身じろぎもせず、そのまま意識を喪失し膝頭からずしんと崩れ落ちた。

「お見事だわ、小紋さん!!」

 その一部始終を目の当たりにしていたクリスティーナは感嘆の声を上げた。また腕前を上げた小紋に対し、更なる尊敬が彼女の腹の奥底に宿る。

「うん、ありがとう!! 僕はクリスさんの手はわずらわせないよ。クリスさんの命と赤ちゃんの命は、僕とデュバラさんで絶対に守るんだから!!」

 小紋は自信に満ちた表情で言葉を返した。

 この三年近くもの間、小紋はクリスティーナと共に武術の特訓に励んだ。それはただ自分の身を守るための目的ではない。互いが互いの身を守り合うという相互意識によって到達した境地である。三人は互いに、デュバラ、クリスティーナ、小紋という三つ巴みつどもえが三位一体となって互いを支え合った時、より頑強な布陣が組めると信じているからだ。

 彼らは少数精鋭で組織を作り上げようとしていた。それだけに、どの一人が欠けてもそれが成り立たぬことを心得ている。その為の支え合いなのだ。

「さあ、どんどん掛かって来い!! 俺たちは貴様らのような有象無象の輩にやられるほどやわではない!! 己の信じる道と、愛する者を守るために突き進むだけだ!!」

 黒豹がえた。密林の大地を駆け巡る野獣が歯をむき出しにすれば、さすがに数で勝るだけの私兵どもはたじろぐしかない。

 元々、この世界桃色マカロニ教は、自分の人生に迷いのある者や、何らかの理由でしいたげられてきた者同士が寄り集まって膨れ上がった狂信団体である。そこには、信じる道もなければ、確固たる信念などもどこにも見当たらない。

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