フォール・アシッド・オー⑨


 小紋の悪い予感は的中した。ピンク教団は小紋らが何らかの形で潜入してくると読んで、手ぐすねを引いて待っていたのだ。彼女の嫌な感覚の鳥肌の意味はこれだったのだ。

「うわぁぁぁぁっ……!!」

 小紋はすぐさま頭を抱えて身を縮めた。この狭いゴンドラの中では彼女にできる手立てはこれしかない。

 デュバラは直線軌道から身をひるがえし、大きな羽根でクリスティーナをくるんで彼女の身をかばった。鋼鉄と有機生命体とで融合したハイブリッダーの身体は、通常の弾丸ではそう易々と貫くことは出来ない。ましてこれだけ距離が離れていれば、弾丸の威力は弱まり致命傷を負わされる心配はない。

 だが、彼の片方の腕にはゴンドラに乗った小紋が居る。ゴンドラはアルミニウム製で、下方から撃って来た弾丸を防ぎ切れるほどの厚みが無い。当たりどころが悪ければ、小紋は一発撃たれただけでも致命傷はまぬかれぬ。

 デュバラは苦悶に満ちた表情で風圧に耐えつつも、グイとゴンドラを勢いよく引っ張っぱった。そしてもう片方の腕の中のクリスティーナごと抱え込んんでみせた。デュバラは元暗殺集団のエージェントではあるが、自らが発した言葉だけは必ず守る男だ。自分の身がどうなろうとも、クリスティーナともども小紋に傷を負わせるわけにはいかないのだ。

(デュバラさん、あんまり無理しないで……。確かに必ずゴンドラの中の僕を守るとはいったけれど……!!)

 いくら融合種とは言えど、これだけ雨あられのように弾幕を張られまくっては、しものデュバラであっても相手の攻撃圏内から逃げおおせることは不可能である。敵もさるもの引っ搔くもの、相手は余程空からの潜入を予期していたようで、針の穴を通すほどの余裕すら開けてくれない。

 デュバラに、しなやかな指で指示を出すクリスティーナは戸惑っていた。どうこの局面を抜け出せば良いのかまるで見当もつかない。これほどまでの待ち伏せを食らうなどとは思っても居なかったからだ。

 まして弾丸の雨の中を、指先だけの指示で抜け出せるとは到底思えない。優秀な融合種であるデュバラ一人なら何とかなるのかもしれないが、ミックスのようにインタラティブコネクトを使用した反射的な意思疎通が出来なければ、これをけ切れる可能性は皆無である。

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