フォール・アシッド・オー⑧


 デュバラは見る見るうちに漆黒にむせぶ上空目掛けて舞い上がった。

 ここまで高く飛行すれば、地上からのサーチライトすら光線が薄らいでいる。標的が小さく金属が少ないために、レーダーに引っ掛かり難いという利点もある。

 彼らが目的の建物の真上へと到着すると、

「さあ、デューク。ここからがあなたの見せ場よ」

 クリスティーナは言うや、目の感覚も耳の感覚も閉ざされたデュバラの胸板に、彼女のしなやかな指をそっとあてがった。そして彼らしか知り得ない動きで指のをしたのである。すると、デュバラは大きな瞳を彼女にそっと向け、抱きかかえた腕で彼女の身体を優しく抱き直す。

 どうやら彼女との意思疎通は良好のようであった。デュバラは精悍なマスクのくちばしを縦に振ると、そのまま急転直下に空を滑り降りる。

 ところがゴンドラの中に居る小紋は生きた心地がしない。地球の重力よりもさらにその上を行く直線軌道の力に腰が抜けるような感覚が伴っているからだ。

 しかし、それ以上に厄介なのが、未だに嫌な感覚の鳥肌が止まらないことだ。自分たちは、何に狙われ、何に怯えなくてはならないのかさえ分からぬまま箱の中に閉じ込められなければならないのだ。

 その時、小紋は愛銃を抱え、ふと何かの考えがひらめく。

(も、もしかして……!? この感じは相手のだまし討ち!? あのヴィクトリアという人の言うことが本当に本当の事じゃなかったとしたらあり得ることだよう!!)

 小紋の額からどっと冷や汗が滲みだした。この急激に感じた嫌な感覚が現実のものならば、もしかすればその可能性がないわけではない。何と言っても、彼らはどこかでヴィクトリアという人物の言うことを信じすぎていたのだ。あの鳴子沢春馬という兄の存在がヴィクトリアのそばに居たために、彼女らにとって緩衝材になり過ぎていたのだ。

「デュバラさん、逃げてぇっ!! きっとこれは罠だよう!! あのヴィクトリアという怨念に満ちた女の悪意かもしれないよう!!」

 小紋はゴンドラの小窓を開けて叫んだ。しかし、気づいた時にはもうすでに遅し。なんとこのタイミングで、あのピンク色をした建物から数条にも及ぶ光弾が上空目掛けて撃ち出されてきたのだ。

 キュウーン、キュウーン――!!

 空を切り裂くようにして乱れ飛んで来る弾丸。それがへりの辺りををかすめて行くたび、ゴンドラが右へ左へと大きく揺さぶられる。

「く、くううっ……!!」

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