フォール・アシッド・オー⑩


 その時、下方に見えるピンク教団の建物の先から閃光がうかがえた。その閃光は一瞬火花のような広がりを見せ、その後爆炎と共にガラスの欠片のような物が星空が辺り一面に広がるかの如くキラキラと飛散していったのである。

(あの光、何かの爆発なの……!?)

 クリスティーナは驚きつつもそれを確認するや、一時的に下方からの攻撃が弱まったことを悟る。そして、

(ねえ、デューク!! 右仰角四十五度の方向に頭を振って!! そこには教団の建物の小窓があるわ。こうなったら、そこから潜入するしか方法が無い! どの道、逃げ切れる余裕も無いし……)

 デュバラにその旨を事細かに指で伝える。

 デュバラは見えない大きな瞳を向けてクリスティーナにうなずくと、背中を下方に向けながら羽根を大きく広げてクリスティーナが指示した通りの角度に身体を滑り落とした。 

 それは見事なほどにぽっかりと弾幕に穴が開いたようであった。あの謎の爆発のお陰で、部分的に弾幕が薄らいだのだ。無論、彼らは自ずとその穴の隙間を縫うように滑り降りて行った。

 九死に一生を得るとはまさにこのことである。今の彼らには、誰の命が欠けたとしてもそれは敗北と見なさなければならない。まして、偵察目的で乗り込んだ今回の作戦である。ここで犬死にとあっては、死んでも死に切れるものではない。

 三人は警戒の薄い小窓に辿り着くと、半ばホッと胸をなでおろすかのようにその場にへたり込んだ。そして互いの顔を見合わせた。

「全員無事のようね。ああ……本当に良かった……」

 クリスティーナは、変身を解いたデュバラに擦り寄って抱き着く。そして、ゴンドラの中からひょっこりと顔を出した小紋の表情を窺いながらさらにホッと胸をなでおろす。

「しかし、クリス。ここでのんびり安息などに浸っている場合ではないぞ。この様子では、俺たちは完全に標的にされている。つまり、俺たちはあの女狐に一杯食わされたのだ」

 デュバラが、いかつい表情で舌打ちをすると、

「そうだよ、クリスさん、デュバラさん。さっきから僕の鳥肌が止まらないんだよう。デュバラさんが飛び上がった時から急に……。ほら」

 小紋は着ている服の袖をまくり上げると、二人にその細い腕の表面に浮き上がったものを見せた。

「なるほど、それは核心を付いて居るな。小紋殿の三心映操の法術は無意識によるところが大きい。ともなれば、その鳥肌が収まらない所を見ると、まだまだ敵は俺たちを付け狙ってくるはずだ……」



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