不毛の街㊼


 それでも目前のヴィクトリアは、漫然とした表情を見せている。自分のとくとくと説いた高説に自らを浸り込ませていると言った感じである。

(僕は、あの世界でエージェントをやっていた時、こんな考え方をする人を何人も見て来たよ。でもね、そんな人たちの末路って結構さみしかったりするものだよ……)

 彼女は若いながらも、その一線で目にした光景を一夜たりとも忘れたりしない。

「それで、どうなのかしら小紋さん、クリスティーナさん。あなた方は、私たちの活動にご賛同いただけるのかしら?」

 彼女らは依然として仲間を欲している。ということは言うなれば、この後に何らかの大きな計画があるか、計画にとっての不足があると踏んでよい。

「そうですね。僕らはヴィクトリアさんの考えに賛同します。僕たちにとって、世界の人類機械化計画は悪夢以外の何ものでもありません。その……なんでしたっけ? ああ、ネオ・ホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダールでしたよね。僕らはその概念はちっとも知らなかったわけですから、これからはそういった事を踏まえてこちらで勉強させていただきます」

 小紋は言いながら、ちらりとクリスティーナを窺った。すると彼女もニヤリと口角を上げ、

(それでいいのよ……)

 とばかりにうなずいてみせる。

 彼女ら二人は、どちらとも機密を扱うエージェントのてつを踏んだ立派な若者である。それだけに、この場合はこの流れを利用してこの組織の様子を窺うというのが得策だと考えたのだ。

 無論、内心はヴィクトリアの考えに少しも賛同しているわけではない。しかし、白狐のヴィクトリアを始めとするフォール・アシッド・オーは、全ての機械化された人間をも根絶やしにしようとしている。言わば超過激組織なのだ。

 あの以前流行した〝おたふく風邪〟によって、止むを得ずにサイボークと化した小紋の姉、風華のような人々を思えば、そんな非情な行動を黙って見過ごすわけにはいかない。その行為を抑制するのも、これもまた彼女らの使命と言うわけだ。

(自分の身体を機械化して威張り散らすようなピンク教団もあるのは確かだけど、その反面、お姉ちゃんみたいな人たちだって沢山いる。そんなのを十把一絡げに根絶やしにしようなんて僕たちがさせないよう……)

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