不毛の街㊽


 小紋はこれが、今まで自分たちが目的としていた――世界人類サイボーグ化計画の阻止――に矛盾していることは分かっていた。

 しかし、これもまた彼女の師である羽間正太郎が言っていた言葉があって、これを軌道修正出来たものである。

 彼は言っていた。

「なあ、小紋。これは個人的な感覚なんだがよ……。俺ァよ、その頭っから誰かに無理矢理に強制させられるってえのがどうも性に合わねえんだ。だからってよ、それが世の為人の為とばかりにお為ごかしな事を言って、手ぐすね引いて裏から強制させられるのもこれまたまっぴら御免てえところだ。つうわけでよ、小紋。俺が五年前に経験した戦争ってのは、その最たるものだったんだ。だから俺ァああいった抵抗戦線を張ったんだ。どうしても十把一絡じっぱひとからげげにモノ扱いにされるのが嫌で死ぬ気で戦って来たんだ。いいか? 俺たちは腐っても人間なんだ。どうあってもその呪縛からは一切逃れることは出来ねえ。俺ァ、誰かにモノ扱いにされるぐれえだったら、最後まで人間として生きて戦って死ぬ。それが馬鹿だとかマヌケだとか誰かに好き勝手なことをほざかれようとも、この考えだけは曲げねえつもりだ」

 小紋は、正太郎のこの考え方が好きだった。それが今後の人類の歴史の中で、どんなに不正解であったと叩かれようが、どんなに愚かであると蔑まされようが、大事なことなのではないかと考えていた。

(そうだね、羽間さん。僕が世界人類サイボーグ化計画に賛同できないのも、ヴィクトリアさんの考え方に納得いかないのも、きっと羽間さんの考え方が大好きだからなんだね。だってどちらとも、人の心を無視したモノ扱いなんだもん……。羽間さんは、表面的に自分の考えを押し通しているように見えて、最後は相手の事を考えて行動している。だけどあの人たちは、表面的に全体の為に行動しているように見えて、相手の事をないがしろにしてしまっている。これがきっと僕が羽間さんを追い駆けてしまう理由なんだね……)

 

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