不毛の街㊹


「言葉の意味……?」

 どうやらこの言葉の意味こそが、白狐のヴィクトリアの言わんとしていることだと小紋は悟った。この言葉の意味に帰結させるために、回りくどい質問攻めを行ったと考えられる。

「そうね、ネオ・ホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダール。この言葉の意味が理解出来ていなから、あなた達のやろうとしている事が中途半端だというのよ」

「僕たちのやろうとしていることが、中途半端だって?」

「そうよ。本当に中途半端なのよ、あなた達は。何て言ったって、私たちの組織フォール・アシッド・オーは、その言葉を起点に活動を続けているのよ。なのにあなた達は、その起点の意味すら分からずに反抗しようとしている」

 ヴィクトリアは、また小紋たちをさげすむようにガラスの瞳を投げかけて来る。

 その凍るような冷たい眼差しに、小紋は背筋にゾッと冷たい何かを感じつつも、

「では、そのネオ・ホモサピエンス・サピエンス……えっと、なんでしたっけ?」

「ネオ・ホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダールよ。あなたの聞きたいのは、この言葉の意味かしら?」

「そうです、その通りです。だから勿体ぶらないで教えてください。その言葉の意味を……」

 小紋は、えてヴィクトリアの機嫌を損ねぬように下手したてに出た。彼女の真意をうかがう為には、こうでもしなければ表面的にも心を許してくれなそうだからだ。

 すると、

「いいかしら? この言葉はとても重要なの。なにせ、それは私たちのことであり、あなた達の事でもあるからよ。つまり、かの地に渡航して、あの環境で一定期間を過ごした人々。それこそが私たち新人類たるネオ・ホモサピエンス・サピエンス・ヴェルデムンダールということなの。その定義は、あの土地で暮らしたことで、新たな生態メカニズムを手に入れた人類ということよ」

 ヴィクトリアは、淡々とその言葉を言い切った。これが彼女の言う、反抗の起源だと言うのか。

「ねえ、あなた方は何か感じなくって? この地球から一度も離れぬ人々との違いを。ここから離れずに生きている人々はとてももろいわ。そう、厳しい環境にその身を置いて居なかったという意味だけではなく、人間として生きる意味としても甘い。それは、あの弱肉強食を絵に描いたような厳しい環境に適応しようと懸命にあがいた結果だと私は信じている。でもね、話はそんな精神論のようなものだけで言っているのではないのよ。あの世界には、人類を進化させるだけの触媒が存在していたの」

「しょ、触媒だって!?」


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