不毛の街㊸


 小紋もクリスティーナも、豹変したヴィクトリアの様子に呆気にとられる。がしかし、ヴィクトリアの走り出した口が止まる様子が無い。

「ねえ、お二人は、先の〝おたふく風邪〟のことは御存じかしら?」

「え、ええ、それは勿論です。僕もクリスさんも、こっちに帰って来てすぐに流行り出した症状ですから」

 小紋は、この話題になるたびに胸が痛む。あの美しかった姉、風華の一件が脳裏をぎるからだ。

「それならばお二人にうかがうわ。なぜ、あのおたふく症状は、あなた達に出なかったの? 勿論、私たちここに集まった一同も同じことよ。確かに風邪に似たような熱が上がる症状はあったのだけど、あんな醜悪な見た目にはならないで済んだ。それはどういうこと?」

 小紋は、一瞬だけ醜悪という彼女の言葉にいきどおりを覚えた。が、そこはグッと言葉を飲み込んで答えた。

「それは、これまでの様々な研究機関の研究結果でも言われている通り、ヴェルデムンドに一定期間移り住んだ経験のある人には、その症状を抑制する抗体が出来ていたんだと思うんです……」

「へええ、そうなんだ。でもそれは、あくまで研究機関の予想に過ぎないのではなかったかしら? どんなに予測は出来ていても、未だどこの研究機関でも確証を得られないまま今日に至っているのではなかったかしら?」

「そ、それはそうなのですけど……。で、でも、今までの人間の歴史を辿ってみれば、実際にそういった事象もあるわけですし、そういう見方でことを進めていくのが妥当なのではないかと思うんです」

 小紋の言っていることに、どこにも確証がなかった。返答自体に自信すら無かったが、どうにもヴィクトリアの鼻につく言い様が気に入らなかったのだ。

「なるほど、歴史に学ぶ、ね。そうね、それはとても良い事だわ。でも、どうにもあなたはいい子ちゃん過ぎるようね。まるで学校という狭い空間の中だけに生きる優等生の答えのようだわ。でもね、小紋ちゃん。実際、あなたの言う教科書で習った歴史の中に、ヴェルデムンドなんて他次元世界が関わる歴史なんてあったかしら? もし、歴史を鑑みて考えるというのであれば、そういう因果関係も含めて答えて欲しいものだわ」

 ヴィクトリアは不敵な笑みを浮かべつつ、吐くように言葉を並べた。

 これでは流石に小紋は何も言い返せない。彼女の質問に何かを言い返せば、何かを被せて考えの主導権イニシアティブを取られてしまう。この有様では、さすがに相手の思う壺である。しかし、ヴィクトリアは何を言わんとしているのか、まるで先が読めない。

「私は先程、あなた方をレジスタンスのモグリと言ったわね。その言葉の意味を考えたことがあって?」


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