不毛の街㉛


「な、失礼ですね!! 身共はそのような……。このような時に女に恥をかかせるおつもりですか!?」

 女は蒼ざめたような、それでいてどこか赤らめたような表情で言い返す。

「い、いや……、そういうんじゃねえ。血だ、血の匂いがするんだ。キミとこうやって体を交えていると、どこからか艶めかしい鮮血の臭気が漂って来るんだよ……」

「血? 血で御座いますか? 生憎あいにく、身共は長らく人を殺める任務からは離れておりますが……」

 女は意外な言葉に目をぱちくりし、ホッとしたように正太郎を見つめ返す。

「そうか、キミ自身がそう言うんならそうなんだろうが、たった今、キミの身体のどこからか血の匂いがしたんだ。赤い、とても赤くて鼻の奥をくすぐるような鉄を含んだ重たい匂いが、な……」

 正太郎が言葉を閉じると、

「それならば、先ほどあの者たちに追いかけられました時、少々枝に太ももを引っ掛けてしまいまして……」

 まだうら若い女性らしい、しどけない表情で、女は言い返して来る。

 すると、

「な、なんだと、怪我をしただと!!」

 正太郎は半ば声を裏返し、いきなり彼女のむっちりと張りのある太ももに手をやった。そしてあろうことか、内股から臀部でんぶの辺りをくまなくまさぐり返してゆく。

「あ、ああ、そんなあ……。そんないきなり事をかれましても、まだこちらの方の心の準備が……」

 女はひたすら焦り加減で体をくねらせると、甘い吐息混じりに、か細い首筋をむちのようにのけぞらせてしまう。

「い、いや、そういうんじゃねえんだ!! こりゃまずいぞ、まずいことになったぞ!!」

 正太郎は女の太ももに大きめの傷口を見つけ出すと、べったりとまとわりついた鮮血を確認した。

 その時であった。そこに如何ともし難い冷ややかな風が彼らの耳元を横切ったのだ!!

 ふぃっ――

 一瞬の出来事である。女の髪がぱらりと跳ねたかと思うと、巨大戦艦が照らし出す星屑のような明かりに陰影が現れる。と同時に、女の身体が真っ二つに弾け跳んで行く姿が映し出された。

「馬鹿なっ……!!」

 刹那、正太郎は横っ飛びに跳ね上がると、地べたに思いっきり体を預け、二転三転させながら草葉の陰に身を隠す。

「しまった、やられちまったのか……!?」

 彼の身体は傷一つこそないが、体全体に絶望感が忍び寄る。

 漆黒の死刑執行隊こと融合種ハイブリッダー――。その存在は、夜目こそ利かないが血の匂いと色に反応する。

(クッ、分かっていながら……)

 正太郎は、元87部隊の女との快楽に酔いしれて、その鉄則すら忘れてしまう。



 

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