不毛の街㉙
とは言え、話がよく出来過ぎている。いくら化け物どもが夜目が利かぬとはいえ、それをこうも簡単に人々に知らしめられるようになろうとは如何せん上手く行き過ぎている。
(これじゃ、まるで誰かに俺の心の中を見透かされているみてえだぜ……)
正太郎は、呆気にとられている人々の目を掻い潜りながら、大声を出して逃げ去った女の行方を追った。
とにかくあの女は怪しい。まるで彼の動揺した心を見計らったかのように騒ぎ立て、それで列から飛び出して行ったのだ。
(何者だ、あの女……? よく考えてみりゃ、並みの肝っ玉なら、あんなシチュエーションでいきなり声を上げるなんざ到底出来る筈もねえ。委縮して場の空気に流されるままあの中に入っちまっているってところだ。それなのにあの女はよ……)
さすがの正太郎ですら、逃げ行く女の姿かたちすら印象にない。ただ、黄色い悲鳴を上げてその場を風のように立ち去った記憶だけが脳裏に焼き付いている。
(俺としたことが何とも情けねえ……。こりゃあ少なくともプロの仕業だ。ビデオカメラがあるならともかく、しかし……もしそれがあったとしても、あの女の姿はあらゆる角度からも特定され難くなっているだろうけどよ……)
かなちょろのエリックもかなりの腕を持った諜報員であった。しかし、このさらに上の技術を持った諜報員ともなると、
(こりゃあ、ミックスの仕業かもしれねえ……。それも飛び切り上等の腕を持つ連中。するとなると、ヴェルデの新政府軍特殊隠密〝87部隊〟の生き残りか……?)
と、そう思わざるを得ない。
かつて五年前に終結した〝ヴェルデムンドの戦乱〟。その渦中で暗躍したヴェルデムンド新政府軍の隠密精鋭〝87〟部隊。
通称、ハナ部隊――。
あの鳴子沢大膳のお墨付きであったクリスティーナ浪野ですら手の届かない女性隠密部隊。
今やヴェルデムンド新政府は事実上解体され、ペルゼデールネイションへと実権は移行されたが、彼女らの消息は杳として知れぬままなのだ。
(そんな連中がここに紛れ込んでいるともなると、こりゃあ大事だわな。ま、確かにこの世界の一大事なだけに、あの連中が独自に手を出して来るってのもうなずけるものだが……)
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