不毛の街㉘


 絶叫した女は、列から飛び跳ねる様にはみ出すと、黄色い奇声を上げながら一目散に暗闇の森の中へ駆けて行こうとする。

 そんな姿を察知した〝漆黒の死刑執行隊ばけもの〟が、どこぞの空間からそぞり出て彼女の前へと立ちはだかろうとする。

「チッ、これはいかん……!!」

 その光景を目にした正太郎はいち早く身構えると、列を成した人々の目が彼女らに向いているのを見計らって腰を低めたまま後ろに下がった。

 そしてこん棒程度に枯れ落ちたを二、三見繕って抱え込むと、

「せいっ!!」

 静かな掛け声と共に奴ら目掛けて棒を投げ込んだのである。

 投げられた棒きれは、びょうと激しい音を鳴らして回転しつつ化け物らの羽根に当たる。

 駆け出した女を逃がさぬよう追い込みをかけていた化け物どもは、そのただならぬ感触に一瞬ぎろりとこちら側をにらみ付けるが、

「へへっ、どうせお前らは夜目が利かねえことは先刻承知さ。これもかなちょろのエリックの情報の賜物だ」

 言いながら正太郎は再び駆け込んで場所を変えると、もう一度そこから棒きれを拾って奴ら目掛けて投げ込むのである。

 化け物どもは如何とも代えがたい感触の物を打ち当てられ、その度に必死の形相で背中の辺りを睨み付けるのだが、

「馬鹿め、いまさらそんなところを見たって、そこには俺ァいねえぜ!! どうせ、この暗闇ではお前らの目には何も見えてはいねえんだろうけどな!」

 クスクスとにたりほくそ笑んで走り回る正太郎の気配に到底追いつけるものではない。

 これは当然のことだが、漆黒の死刑執行隊が女を追ってみせたのは、ひとつのデモンストレーションである。一般の人々には、奴らの夜目が利かないことは知れ渡っていない。

 それを言葉による吹聴などではなく、実際の人の目で感じ取ってくれるように画策したのは正太郎の意図するところであった。

(その方が、人としての選択肢が広がるってもんだ。ここに残って奴らの手に堕ちるのを待つのも、そこから這い出して逃げるのも自分の考え次第って事さ。俺ァ、正義のヒーローなんかじゃねえ。そんな力があるわけじゃねえ。どこに正解があるかも分からねえこの事態を救えるのは、自分の今後の選択肢次第なんだからな……)


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