不毛の街㉑



「そ、そんな……!! 春馬兄さん! 兄さんがそんなこと!?」

 小紋は、兄の余りの変容に戸惑った。その表情は、まるで悪鬼のようである。小紋はこれまで、兄春馬のそんな厳めしい顔つきを見たことが無かったのだ。

(どういうこと……!? あんなに優しかった春馬兄さんが、こんなに居丈高になって主張するなんておかしいよ。これも白狐のヴィクトリアという人の影響なの……!?)

 小紋はかつて、ヴェルデムンド新政府の一機関であった発明法取締局に在籍していたとき、同じように感情の行き所を豹変させる人々をその目で沢山焼き付けて来た。それは彼女たち取締官エージェントが取り締まるべき対象となる人々の大きな特徴である。

(僕は今、あの時とは違って逆の取り締まられるべき立場なんだけど、それでもこんな過激な行動を目的とする人たちに賛同出来ないよ……。だって僕があの世界で見て来た過激な人たちは、羽間さんとやってる事は同じようでいて、それなのにどこかが違うんだもん。確かに羽間さんも武力は使っていたと学校のヴェルデムンド史では習ったけれど、少なくとも関係の無い人たちまで巻き添えにするような事はなかった。なにしろ相手は新政府軍だもんね……。もし、このフォール・アシッド・オーとかいう組織が、今春馬兄さんが言ったような危ない考え方をするようならば、それはもうただのテロリズムかもしれないじゃない……)

 小紋は、春馬に気付かれぬように、静かにクリスティーナに目配せをした。すると、彼女は顎を軽く振ってコクンとうなずいて見せる。どうやらクリスティーナも小紋と同意見であるようだ。

 しかし――

「小紋よ。そして赤髪が美しいクリスさんよ。私の人生は今、大変に充実している。それは、この地球に自然たらしむる重大な役目を背負っているからだ。私がこのような充足を覚えたのは生まれて初めてのことなのだ。それもあの世界で〝超自然主義論〟を唱える白狐のヴィクトリアと出会ったお陰だということだ。彼女は偉大だ。なにせ、この世界の未来のビジョンも全て見据えている。そう、彼女には未来が見えているのだからな!!」

「み、未来が見えるですって!?」

 それまで閉口していたクリスティーナが、驚きの余り驚嘆する。



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