不毛の街㉒


「そうだ、白狐のヴィクトリアはこの世界の未来を見通すことが出来る預言者でもある。彼女はあのヴェルデムンド世界に在住していた時、神の啓示に触れた。そして時が見えるようになった。私は家を飛び出してからというもの、全くうだつの上がらない私生活を送って来たが、彼女と出会い、そして同じ時期に神の啓示を受けることに因って今のような充実した毎日を送れるようになったのだ。悪いことは言わん。キミたちも彼女と対面して、私のように地球の未来に貢献する毎日を送るのだ!!」

 春馬の目は希望に満ちていた。どうやら彼の放つ言葉は本気のようだ。少しの淀みすら感じさせない。

 小紋もクリスティーナも、春馬のそれが何であるかを承知していた。

 だが、今ここでそれを議論したところで彼の考えをいち早く修正することは出来ない。なぜなら、鳴子沢春馬の思考は自ら壁を作り出し、もう後戻りできぬほどの

(これでは彼に何を言い返しても無意味よ、小紋さん……)

 クリスティーナは言葉にせず、目配せで意思を伝えると、

(そのようだね、クリスさん。ここは多少危険だけど、流れに任せて春馬兄さんに付いて行くしかないよね……)

 小紋も軽くうなずいてそれに同意した。

 彼女らは元エージェントということもあり、このような相手に対する対処術も心得ていた。しかし、とは言うものの、こう言った相手が集う場所は伏魔殿と化していることが殆どである。世間の常識や法などが通用しないケースが常である。

(良い? 分かっているとは思うけれど、ミイラ取りがミイラにならないように気を付けないと、ね。小紋さん……?)

(うん、承知したよ、クリスさん。あくまで僕たちは情報を観察するための手段としてここに入る。そうじゃないと、僕たちも格好のエサになっちゃうかもしれないもんね……)

 彼女たちは、春馬の背中を追いながらタワービルの入り口に足を向けた。思わぬところで思わぬ邂逅かいこうに、二人は久々の良からぬ緊張を強いられるのであった。 


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