不毛の街⑳


「ええ、情報組織。その名も〝フォール・アシッド―Ǒオー〟」

「フォール・アシッド・オー? ええと、酸が空から降って来る? でも、そのオーというネーミングの意味が分からないわ」

 クリスティーナが怪訝な眼差しで聞き返すと、

「ええ、フォール・アシッド―オー。そのとは、オイルの頭文字です。つまり、という意味ですな」

「酸化したオイルの雨を降らすですって!? それってもしかして……?」

「ええ、さすがですな、赤髪が美しい人よ。その名の意味が示す通り、白狐のヴィクトリアが首領を務める我々組織の目的は、あの機械人形が蔓延ばびこったこの世界を、武力を持って粛正することにあります。汚らわしい機械人間の腐れ切った油の血の雨を降らすという意味での……」

「な、なんですって!?」

 クリスティーナは思わず声を張り上げてしまった。隣で話を窺っていた小紋も開いた口が塞がらないでいる。

「は、春馬兄さん! それって武力でことを成し遂げようとする〝過激派〟ということ!? 白狐のヴィクトリアさんという人は、そんなに危険な人なの!?」

 まくし立てる小紋に、

「何を言うか、小紋よ。お前はこの地球の変貌に危機感を覚えないのか!? 最早、この国の政治経済は機械生命体たるミックスのいいように乗っ取られた。そしてさらに、自然派たるネイチャーに居場所は無くなってしまったのだぞ。それはここ日本だけに限った話ではない。ネイチャーである我々には、有り得ないほどの重税が加算されていることは知っているよな? 自然派は、この世界に生きているだけで食料を過度に食い散らかし、糞尿をやたら垂れ流し、あまつさえ数多の病原菌の宿主となり得ていると事実無根の戯言を全世界にうそぶかれてしまったのだ。もはやこの状況を武力なくして打破することなど出来ん! それにだな……」

「そ、それに?」

「それにだな、小紋。お前の敬愛する羽間正太郎という男とて、向こうの世界での威圧的な状況を打破する為に戦い抜いた先駆者ではないか!? お前はそんな男を肯定して、実の兄である私のやることは否定するのか!? いいか、我々はその戦いをする為の準備がある。それには、先ず、様々な情報を得ねばならんのだ!!」


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