楽園へのドア⑭


 これは大きな収穫だった。そう考えれば、昼間のデモンストレーションに合点がゆく。

 凶獣ヴェロンに対し、あれだけ圧倒的な力を見せた〝漆黒の死刑執行隊〟だが、それは日中だからこその芸当であって、このとっぷりと闇に暮れた森の中ではそれが出来ないということ。あの芸当は、決して夜には行われないということだ。

(道理で夜になってからが静かすぎると思いやしたよ。都合よくヴェロンが来なかったからなのではなく、融合種ハイブリッダーの都合が悪かったからなので御座いやすね……。ということは、もしやすれば、昼間は〝ベムルの実〟を故意に使ったって可能性もありでやすね……)

 エリックは痛みを堪えながらもニヤリと笑みを浮かべた。

 確かに昼間のあの一件は出来過ぎていた。とてもきな臭い何かが漂っていた。でも、だからと言って、先人の情報にあった〝漆黒の死刑執行隊〟の実力は誰の目にも脅威である。。隣にいた伝説の兵士、羽間正太郎ですら固唾を飲んでいたぐらいなのだ。非戦闘員である一般人の目からすれば、それはやれ、

「神だ!!」

「救世主だ!!」

 と、騒ぎ立ててしまうのも無理もない。

 しかし、それは昼間に限ってのこと。視界の利く明るい状態ならでは、なのである。

(だけど一つのメリットだけを誇張して、細かなデメリットをひた隠しにするのはフェアじゃ御座いやせんぜ、お前さん方。そういうのは、どこか自分に非があると感じているからそういった行為に走っちまうってもんです。言わば、それ自体が自分の弱みをひけらかしているのと同じなのでやす……)

 エリックは、さながら子供のように無邪気に噴出してしまった。あれだけ思い詰めていたのが馬鹿馬鹿しくなったからだ。

 ようやくこんな状況になって、かなちょろのエリックには敵となる浮遊戦艦側の焦りが見え始めて来たのだ。無理もない。

(まったく……。完全無欠の楽園といううたい文句を引っさげながら、デメリットをひた隠しにする。そして、そんな不完全とも言える進化した生き物と手を組むってことは……案外、アンドロイド国家ってのも胡散臭いで御座いやすね……)

 


 

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