楽園へのドア⑬


(しかし何故、奴らはこんなあっしにとどめを刺して来ないのでやす……!?)

 そう考えを巡らせた瞬間、エリックに再び希望が湧いたのだ。

 冷静になって見て見れば、彼は放ったらかし状態だった。――いや、まてよ。放ったらかしなのではない。奴らはここに辿り着けないだけなのではないか。そう思えたのだ。

 〝漆黒の死刑執行隊〟らは、一切の音も立てず、この闇の空間を縦横無尽に飛翔している。それは正に、空の支配者と言わんばかりの様相を醸し出している。

 しかし、今のエリックの目にはそうは映らない。

(こいつら、あっしがどこに居るのか分からないんじゃ……)

 と感じてならないのだ。

 それが証拠に、らは未だ車両の上空を右へ行ったり左へ行ったり。とても獲物に狙いを定めてもてあそんでいるようには見えない。言うなれば、車両上空を獲物を見失ってうろちょろと彷徨さまよっているようにしか見えないのだ。

(しかし分からねえものだよ。大体何でアイツらは、最初のあっしの気配に気づいた……?)

 そこまで鋭い感覚を持った相手であれば、今のボロボロになったエリックの姿に気付くはずである。にもかかわらず、まるで丸腰丸裸状態同然の彼をこうも見失ってしまうものか?

 エリックは深く考えた。が、またも右足に激痛が走り苦悶の表情を浮かべる。伴い、苦痛に身をよじらせ、ひどくくぐもった唸り声を上げた。

 その時である。エリックはハッと何かを思い出した。

(血、血だ……!! もしかすると奴らは血が何かと関係あるのかもしれねえでやす!!)

 右足の事で思い当たる節があったのだ。

 彼は、羽間正太郎にトイレに行くと告げてから、誰も居ない洗面所に行くと、そこで天井にある通気口を伝ってここまで上り詰めて来た。

 しかし、通気口に入り込んでからその蓋を閉めた時に、僅かだが小さな突起物にすねの表面を傷付けて出血してしまったのだ。

 その時は、

(大した怪我じゃない……)

 と、全く気にせずにここまでやって来てしまったわけだが、

(あれを引っ掛けてしまったのは右足のすねだった……)

 ということに気付いたのだ。

(ということは、もしかすると……。このらは、その血の匂いか何かに反応して……)

 エリックの右足だけを狙って来たのかも知れないということになる。

 もしこの仮説が的を射ているとするならば、

(奴らがあっしに止めを刺せない理由は、外壁中が血だらけで、どこにあっしが居るのか見当もつかないのでは……?)

 ということだ。さらに言えば、切断された右足の〝匂い〟が、この車両のどこかから漂っている可能性もある。

(そういうことか! こいつらは、相当に夜目が利かないという証拠だ! ただ、血の匂いだけ極端に鼻が利くのかもしれないでやす!!)



 

 

 

 

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