楽園へのドア⑨
それには、何としてでもサンプルの採取が不可欠だった。
今まで幾度となく彼らの有志が集めてくれた情報は、一つ一つがより微塵なものであり、全体像がハッキリと浮かび上がるものではない。だとしても、それが山となり蓄積されつつあるのは、今後の戦いへの布石となるのだ。
あの羽の生えた存在が、
(しかし、仲間は誰一人として帰って来やしねえ。そしてプツリと連絡が途切れて生存の確認も出来ねえ……。もう奴らは正体がばれて死んじまったか、敵さんの意図する何かに変えられちまった可能性が高えって話だ……。だが、あっしもそれでいい。あっしがここで奴らの情報の何かを掴んで後進に流せば、それであっしの役目は完遂される……。後進がそれを活かしてくれるはずなんだから……)
かなちょろのエリックは羽間正太郎との取引に失敗したのちに、第十三寄留〝ムスペルヘイム〟に住居を移していた。無論、彼の家族や植物状態に陥ったヴィローシェも一緒である。
しかし、あのペルゼデール軍の侵攻と同時に起きた〝凶獣ヴェロンの大襲来〟。そして黄金の円月輪が起こした謎の泡による第十三寄留ムスペルヘイムの大崩壊。これによってそこに住まう人々の殆どが命を落とす結果となったのは言うまでもない。
かなちょろのエリックこと、エリック・エヴァンスキー。彼とてその例外に
彼はその時、〝調査屋〟と呼ばれる大型人工知能用のデータベース集めの稼業に勤しんでいた。そして、別の寄留と寄留との間を、口も開かぬヴィローシェと共に往来していたのである。
(あっしは必ず任務は遂行してみせやすぜ、ヴィローシェ様。そして愛するシンシア。息子たちよ……。これが終われば、父ちゃんはもうすぐお前たちの所に行けるんだ。またお前たちに会いに行けるんだ……)
エリックは、外装にべったりと体を押し付けたまま、ジャケットの胸ポケットに右手を忍ばせた。この中には万年筆大の特殊装置を隠し持っている。それは対象のDNAを採取するための小型針が仕掛けられた発射装置である。
エリックは片目を瞑って
(いいんだ。この任務が完遂そればいいんだ……。この針が奴らの体のどこかを突き抜けて、他の仲間がそれを拾ってくれれば、あっしの働きは無駄にはならなんので御座いやすよ……)
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