楽園へのドア③


 正太郎のこめかみから、冷や汗がだらりと滴り落ちて来る。これでは永遠の楽園の入り口どころか、地獄の一丁目の玄関口でしかない。

 彼の焦りは最高潮に達している。案の定、乗員の恐怖も限界のようだった。しかし、そこに拍車が掛かるように更なる脅威が襲う。

「あ、あれを見ろ! ヴェロンは一体だけじゃないぞ!」

「あっ! 空の向こうからまだ来る!」

「一体……二体……。いや、全部で六体がこっちに向かって来る!!」

 乗員らは天を見上げ、それぞれが指を差し、おののき叫んだ。

「い、いやぁぁぁ!! 私、死にたくない!!」

「うおぉぉぉ!! こんな所で、何でこんな目に……!!」

「俺たちは何の為にここにやって来たんだあ!!」

 数人の乗員がいきなりパニックを起こすと、そこに居る全員の鳥肌が立つ。頭を抱え座り込む者もあれば、ただ茫然と立ち尽くす者も居る。そして互いに手を取り合ってひたすら喚き続ける者さえ居る。更には興奮状態が限界を超えて、口から泡を吹いて気絶する者が後を絶たなかった。

 しかし、ヴェロンはそんな乗員の反応など目もくれず、今度は輸送車両に体当たりをぶちかまして来た。

「うおっ……!!」

「ぎゃあぁぁぁっ!!」

「いやぁぁぁ!!」

 車両が大きく揺らぐと、人々は一斉に悲鳴を上げた。あたかも大地震のように左右の揺り返しが起こり、車床が荒波に揉まれたように反転を繰り返す。

 尋常ではないその揺れに、正太郎を始めとした乗員らは生きた心地すらない。

(クッ……、これじゃあらちが明かねえ。このままじゃあ、ここに居る全員がお陀仏だぜ。何とかこの俺がやるしかねえのか……!?)

 と、シートに必死でしがみ付いた正太郎が、車両の出入り口を見渡した瞬間である。

「墓石売りのダンナ、あれをご覧なせえ!!」

 正太郎のジャケットの背中をグイと引っ張る手があった。自ずと知れたかなちょろのエリックである。

 エリックは右へ左へと大きく揺さぶられるシートにがっちりしがみ付きつつ、正太郎に天井を見るように促した。すると、

「あ、ありゃあ何なんだ!? 何かが飛んで行ったぞ!?」

 なんと、車両本体の外殻から黒くて大きな飛翔体が弾丸のように飛び出したのだ。


 



 

 

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